沢渡あまね+湊川あい『運用☆ちゃんと学ぶシステム運用の基本』

言われたことだけをやっていて知識も意欲もない、ついでに性格も暗めの運野遥子というシステム運用エンジニアが、運用☆ちゃんという妖精と出会い、システム運用について学んでいくという内容。漫画パートと解説パートを交互に繰り返して学ぶ、この20〜30年ほどでメジャーになった学習アプローチのひとつと言って良いだろう。昔はおそらく、赤塚不二夫先生が『ニャロメのおもしろ将棋入門』という極私的名著を出しておられるという幾つかの例外を除けば、こういうアプローチは少なかったと思う。

難しいのは、この手の漫画をどう評価すれば良いのかということ。わかりやすさは結局、漫画のチカラというよりは、説明そのもののわかりやすさに起因すると思う。ストーリー形式/登場人物の講義形式での説明は、漫画にしたところでわかりやすさは別段向上しないからである。でも親しみやすさは向上する。しかしアレだ……ふむ、妖精と来たか(笑) 妖精がガーッと運用・保守の基本を語るというところには違和感しかないが、親しみやすさは実際に向上しているので、コミカライズという試み自体は成功しているのだろう。

さて本題。全6章構成で、狭義にシステム運用について知りたければ、1章と3章だけで良いだろう。2章・4章・5章・6章はシステム運用に従事するエンジニアにとってのレベルアップやキャリアアップ・モチベアップに関する内容だ。

CHAPTER① 運用のお仕事とは?
01. 「システム運用」って、どんなお仕事なの?
 [解説]運用業務を支える4つの役割
02. システム運用10職種のお仕事
 [解説]システム運用10職種の概要とトレンド

CHAPTER② 運用・運用者について知っておいてほしいこと
03. 運用者のモチベーションを下げる悪魔のフレーズ
 [解説]悪魔のフレーズを言われないようにするには?
04. 運用以外の人も知っておいてほしい「運用観点」
 [解説]フロントエンジニアに持ってほしい、運用観点の例

CHAPTER③ 運用設計について知ろう
05. 「運用設計」って何?
 [解説]運用設計できる人になろう
06. 「業務運用」って何?
 [解説]業務運用担当者が敏感になっておきたいポイント3つ
07. 社内の「引越し」をす制する者は、運用を制する

CHAPTER④ 運用業務の広がり
08. 運用者よ、上流工程に参画せよ!
09. クラウド時代の運用者の歩き方
10. 「Dev Ops」ってなに?
 [解説]クラウド時代だからこそ光る、運用経験&運用センス

CHAPTER⑤ 日々の成長〜ITサービスマネジメント〜
11. 適切なコストと労力で、ITサービスを提供し続けるには?
12. これがITサービスマネージャの仕事だ!
 [解説]価値あるITサービスマネージャになるための5つの要素

CHAPTER⑥ 運用の醍醐味
13. 現役システム運用・管理者に聞く! 運用のお仕事の醍醐味

個人的に勉強になったのが、まず「02. システム運用10職種のお仕事」である。何となく意識はしているものの、わたし自身は非エンジニアであるため、ここまで明確には意識していなかった。ファシリティエンジニアが正直どこにいるのかよくわからないが、システム導入時、たまに電源がどうだのラックサイズがどうだのって問題が発生するんだよね。クライアントとベンダーでよろしくやってくれと思う領域なのだが、たまに電源からの距離が長いとかラックサイズを微妙に間違ったみたいな話が出て、コンサルの仕事にまで飛び火する。

あと、エンジニアにとっては基本の「き」かもしれないが、「01. 「システム運用」って、どんなお仕事なの?」とかも重要。例えば、わたしのような非エンジニアにとっては「ジョブの設計管理」や「リリース対応」はシステム運用部門のお話だからシステム運用だろうって思っていたのだが、「業務運用」という分類になるんだなと初めて知った。もっと言うと「業務運用」という用語や概念を理解していなかったということだろう。そもそもシステム部門の運用業務が「業務運用」「システム運用(基盤運用)」「ヘルプデスク」「運用統制」の4つに分かれることすらイメージできていなかった。ヘルプデスクだけは別種の仕事だと理解はしていたけれどもね。

「10. 「Dev Ops」ってなに?」も個人的には関心が高い。開発(Dev)と運用(Ops)の垣根を超えるというと、アジャイル開発をイメージしがちであるし、それ自体は間違っていないと思う。けど「アジャイル開発」ってのは開発手法だし、調べると「イテレーション」がどうの、「スプリント」がどうの、と結構すぐ開発手法の細部に入っていくイメージがある。もっと運用サイドから壁を超えていく方が実現性は高い気がすると漠然と思っていたので、もう少し掘り下げてみたい。

なお、「Dev Ops」の章の執筆協力者みたいな形で、長沢智治という方のSchooが載っていたので、そちらをシェア。

schoo.jp