小野塚征志『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』

DXとはDigital Transformationの略で、Transという言葉にはクロス/交差するという意味があるため、クロスを意味するXが使われている。これはただの豆知識なのでどうでも良い話なのだが、そもそもDXとは何なんだという話はやはり重要だと思う。単なるバズワードやジャーゴンの類ではないのかと。

その意味では、本書によればDXとは「デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新」である。DXのX(Transformation)の対象が何であるかが重要で、「ITの導入による業務の効率化」や「事務の電子化による生産性の向上」などは単なるIT化・デジタル化に過ぎない。業務の変革やITの変革ではなく、ビジネスモデル(わたしの理解では利益モデルや顧客体験)を変革するからこそDXなのである――著者のこの整理は非常に納得的・説得的なもので、デジタル化やIT化とDXの違いを考える際の解像度が一気に上がった気がする。

本書は、DXの解説めいたパートもそこそこあるが、それ以上に、文字通りのDX(ビジネスモデルの変革)の具体的な事例(会社名とサービス名)が80も載っている。概念図と文字で簡潔かつ的を射た解説をしているところも理解促進や納得感に寄与していて素晴らしいと思うが、著者なりの考え方としてこのDX事例の「進化の方向性」を示しているところが非常に秀逸だと思う。事例自体は「これはもう(少なくとも中長期的には)元には戻れないな」というレベルのものから、ニーズがどこまであるか不明な有象無象のサービスまで玉石混淆である。しかしこの「進化の方向性」を読むことで、「確かにそのように進化すれば世の中に浸透するかも」と思う事例が多い。

DX関連の書籍は山ほどあるが、本書はすごく良いと思う。極私的には超おすすめ。