葦原大介『ワールドトリガー』12巻

ワールドトリガー 12 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ワールドトリガー 12 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ある日突然「異次元」への門(ゲート)が開いた三門市に、異世界からの侵略者・近界民(ネイバー)が押し寄せ、街の人々を襲い出す。しかし、ネイバーとの戦いに備えて準備をしてきた謎の対抗組織・界境防衛機関「ボーダー」がネイバーを蹴散らし、街を沈静化させる。そしてボーダーとネイバーとの戦いが三門市の日常に……といったプロローグのSF漫画。

主人公とヒロイン(と言って良いのかわからんが、まあ一応)の目的は、ネイバーの世界に遠征して、ヒロインの兄(主人公が世話になった人物でもある)を探すことなのだが、ネイバーに遠征できるのはボーダーの中でもA級だけである。だから自分のランクをA級に上げるべく、仲間内での疑似戦闘を繰り返しているのだが、10巻の途中から仲間内での疑似戦闘を丁寧に書いてきた結果、主人公とヒロインの戦闘における根深い問題が導出されてきた。以下ネタバレ気味だが、簡単に言うと、要は主人公は「トリオン体の不足を補うために色々と策を練ってきたが、結局才能ある奴にゴリ押しされたら勝てないよね」という実力不足の問題、そしてヒロインは「才能あるけど人を狙撃できない狙撃手に存在価値あるの」というメンタルの問題である。作中ではまずは主人公の問題から取り組むらしいが、個人的に本作のヒロインにあまり感情移入できないので、ヒロインの問題の方を早く解決してほしい。

なおヒロインに感情移入できない理由は、幾つかある。通常の人間が逆立ちしても手に入れられない凄まじい才能を(ヒロインというだけで)アッサリ持っている点や、それを自分から活かす気が全くないという非主体性、おまけに戦闘においても指示に従うばかりで何にもモノを考えておらず、その「考えてなさ」を周囲が蝶よ花よと守り育てる空気……なるほど、改めて書き出してみると、本作の中でヒロインが「特別扱い」されているところが気に入らないんだね。まあこういう気に入らないところがあっても読み進められるところに、本作の凄さがあるのだろう。普通は、主人公やヒロインの人間性が気に入らないと、もう読まなくなるんだけど。