小林有吾『ショート・ピース』1巻

ショート・ピース(1) (ビッグコミックス)

ショート・ピース(1) (ビッグコミックス)

高校の「映画部」を舞台とした映画作りの漫画。

作者は以前、ファンタジーテイストな『水の森』という全3巻の漫画を描き、今はユースサッカーをモチーフとした『アオアシ』という原案付きの作品でブイブイ言わせている漫画家である。
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上の説明だけ読んで、ファンタジー漫画、編集部が推したスポーツ漫画、リアルな青春群像劇と、とにかく売れそうなモチーフを求めて右往左往している漫画家……と考えたら、この漫画家の本質は見失ってしまうと思う。小林有吾という漫画家は、とにかく一貫して「人間ドラマ」を描きたいと努力し、その場を求めてきた方のようである。「あとがき」のエッセイ漫画でその一端を垣間見ることができるが、正直グッと来てしまった。思えば、『水の森』という作品は多分あまり売れなかっただろうけれども、丹念にストーリーを積み上げてきたファンタジー漫画である。わたしは好きだった。そしてわたしと同じように(と書いてはおこがましいけれども)小林有吾の高いストーリーテリングの力量に着目したスピリッツが、スポーツやスポーツ漫画とは無縁だった小林有吾に『アオアシ』の執筆を依頼した、ということらしい。

そうした背景などなくても十分に面白いのだが、とにかくこの『ショート・ピース』という作品は、小林有吾が描きたいと思っていた「人間ドラマ」をふんだんに盛り込んだ作品である。1話ずつが大変な密度で、かつ1巻全体としても大きなうねりをもったドラマになっている。わたしとしては、これは最高傑作になるだろうなーと確信しているのだが、世間的には『アオアシ』が既に最高傑作として認知されているようだ。これは『アオアシ』も読んでおかねば……!