漆原友紀『猫が西向きゃ』1巻

猫が西向きゃ(1) (アフタヌーンKC)

猫が西向きゃ(1) (アフタヌーンKC)

  • 作者:漆原 友紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: コミック
『蟲師』で一世を風靡した漫画家の最新作。

「フロー現象」という本作独自の概念が中心に置かれているが、これ、どう説明したら良いんだろう。

少なくともチクセントミハイの提唱する「フロー(ゾーン、忘我)」とは関係がない。

空間というのはゆらぎを持つもので、ときにバランスを崩して形を変えてしまうことがあり、これを浮動化またはフローと呼ぶ……といったことが、この世界の理科の教科書には書かれているそうだ。具体的には、ある一部分の桜だけが年中なぜか満開だったり、三叉路(Y字路)が七叉路になったり、物体のカドが全て丸くなったり、35歳の女性の姿形だけが10歳ちょっとの見た目に若返ったりと、まあ訳のわからない不思議な現象を引き起こす。これらは見える人にだけ見える幽霊のようなものではなく、またオカルトのようなものではなく、れっきとした「自然現象」であり、フローに遭遇した人々も「迷惑だな、けど仕方ねえな」といった感じで受け入れている。

崩れたバランスはいつか必ず元に戻るのだが、いつ戻るのかはフロー次第というところも大きい。だが主人公のようなフロー処理業者は、感覚で、このフローがどれぐらいで元に戻るのか大まかには予測することができる。またフローには幾つかの種類があるようで、例えば人の思念をきっかけに発生したフローは、その思念を解きほぐせばフローも元に戻ることがある。第1話で出てきた「三叉路(Y字路)が七叉路になる」という現象は、ある人物の将来への不安が引き起こしたもので、その悩みに付き合って解きほぐすことで、早期にフロー現象は解決した。

……と、一定のルールはあるようだが、全てが読者に開示されているわけではなく、分かるようでわからないような設定だ。この辺は作者の出世作『蟲師』にも通じるところがある。まあ面白くなるかどうかは作者の腕前次第ということになりそうだ。

なお、Amazonを読むと「蟲師のような作品を期待していたのに!」ってので低評価をつけている方が多いが、本作は蟲師とは端的に別作品であり、勝手に期待して勝手に低評価をつけるというのも非道い話である。ただまあ、蟲師はやや寓話的なところがあって、人間の業が見せつけられるケースや、善き行いをしても蟲によってそれが台無しにされるようなケースが多々あった。それに比べると、本作はもう少しほのぼのしている。