大久保圭『アルテ』1〜12巻

[まとめ買い] アルテ

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  • メディア: Kindle版
ルネッサンス期のイタリアを舞台とした、女性画家の一代記。

主人公(アルテ)は10代半ば(物語序盤で16歳だったかな)の少女で、貴族出身(ただし父親が死んでお金や格はだいぶ没落した貴族)である。しかし階級に依存せず、また女としてではなく一人の人間として自分自身の力で自律的に生きていきたいという思いが非常に強かった。その思いが溢れ出した結果、アルテは子供の頃から好きだった絵画の素養を糧に生きていきたいと、自宅の屋敷を飛び出してしまう。そしてフィレンツェ中の画家工房を回るのだが、「女だから」という理由で門前払いの連続の中、唯一「女だから」という理由で拒絶しなかったレオの工房に弟子入りをして、画家見習いとして活動を始める。アルテは、自分のために良くしてくれる親方のレオにあっさり惚れてしまうが、自分の一番の目的は色恋沙汰ではなく女性画家として生きていけるようになることなので、以降はその恋心にフタをして一心不乱に画家見習いとして修行をする……とまあ、こんな感じのアウトラインである。

わたしは女性が男性の所有物として抑圧されていた時代は確かにあったと思っている。で、面白いことに、その中で女性が不幸だったかと問われれば、おそらく必ずしもそうではなく、多くの女性は抑圧状態を当然のものとして受け入れて一生を終えていただろう。一方、本作の主人公アルテは、そうした生き方は嫌だとして、自分の生き方を自分で決め、自律的に生きようとする。

でもこれは難しい。

女性だから難しいわけでも、昔だから難しいわけでもない。今も昔も、そして男も女も、自分らしく自律的に生きるのは難しいのだ。社会に組み込まれた瞬間、なぜか人はがんじがらめだ……。

さて、ネタバレになるから細かくは語らないが、このアルテという画家見習いは当初の「がむしゃらだっただけの時代」から、じき変貌を遂げる。したたかに変貌する。昔は「女性」で「貴族」の画家見習いなんて駄目だろうと蔑まれていたが、今や画家見習いでありながら顧客を何人も抱えるようになる。

それは何故か?

自律的な人間は、したたかでなければならないなあ、と思った次第。

かなり面白い作品なので、ぜひ読んでほしい。大推薦。