タナカカツキ『サ道』4〜5巻

1巻で終わるだろうと思っていたサ道も、いつの間にか5巻まで。

しかし5巻のラストの描写とか、実に味わい深いものがある。

世間的にはサウナがブームだが、作者的にはもうブームを過ぎて、サウナは日々の日常になっている。作者は現在、ベストとは言えないが、近くにあって利用しやすいスポーツクラブのサウナを毎日利用しているようだ。毎日同じ時間に行って、毎日同じように利用する。毎朝決まった時間に白米と味噌汁と卵焼きの朝食を食べるようなものなのだろう。代わり映えしないが、安定した毎日。

同時刻に同じ行動を繰り返せば 日々の新鮮味を失うかと思いきや
季節の移ろいを激しく感じるようになる
今は目をつむっていても蛇口の位置もシャンプーの位置もわかる
時計を見なくても何分入ったかおおよそわかる
何も考えなくていい 何も決めなくていい スーパールーティン生活に突入!
生活全体がまるで自動運転
ルーティンの良さはそれ自体にリラックス効果があることだ
決まった分数 決まった動線でしなやかに行動
無駄が省かれ 洗練され
脳疲労は極限まで抑えられ
体調は安定して良くメンタルもおだやか
なんだかいつもありがたい気持ちでいられる
(略)
サウナによって生活そのものがコンパクトにととのってゆく
(略)
昔は…
深夜まで無駄にダラダラと仲間と話したり
朝まで踊ったり
〆切前に慌てたり
体調を崩したりもしたが
あのときの私はもういない
ほんのり喪失感…
私は何を失ったのだろうか?
とはいえ 昔に戻ろうとは思わない
今のサイクルが心地よいのだ
…ふと思う
これが「ととのう」の真意かもしれない
生活全体が「心地よさ」を基軸に まろやかに一つにまとまる
私は今そんな世界にいる

スーパールーティン生活というのが凄い。

毎日の刺激は必要か?

刺激はたまにだから良いのかもしれない。

なんか自分には絶対ムリだなーと思いつつ、憧れてしまう自分もいる。

最後のやり取りもいい。

<女性編集者>
あれはたしか10年ほど前だったと思います

<タナカカツキ>
あ〜あのときの!

<女性編集者>
このたび新しくサウナのムック本を出すんです
そこでまた大使にご登場いただきたく

<タナカカツキ>
お声がけありがとうございます
なんでもお話しさせてください

<女性編集者>
10年前とまた同じことを訊いてしまうのですが…
大使流のサウナの入り方を…

<タナカカツキ>
サウナは私の大切な日課です
いや 儀式のようなものかもしれません
毎日同じサウナへ 同じ時間 決まった分数入ります
サウナ室に12分・8分・10分の3セット
水風呂は各2分

<女性編集者>
以前は状況に応じてカラダに訊くとおっしゃっていましたが

<タナカカツキ>
カラダには訊きません
決まってるんです

<女性編集者>
以前とは真逆のお答えですよね?

<タナカカツキ>
はい
今はそうなんです

最後の「カラダには訊きません 決まってるんです」が凄く良い。

以前のタナカカツキは、何分入るみたいなノウハウ的なアプローチを凄く嫌っていたように思う。

でも今は、まずカラダに聞くのではなく、毎日同じやり方でサウナを利用し、そこからのフィードバックで結果的にカラダに聞いているのだろう。

わたしは……どうだろう。カラダに聞くというのでも、ルーティンを発見できたわけでもない。その時の雰囲気で決めている。タナカカツキのように安定してサウナや銭湯を利用できれば、もう少しガッツリ「ととのう」のかもしれない。