山田鐘人+アベツカサ『葬送のフリーレン』9巻

「今、続きを最も楽しみに漫画のひとつ」といったことをわたしはよく書く。

仕方ない、事実そうなのだから。今、面白い漫画はたくさんある。

しかしその中でのトップオブトップを選べと言われたら……どうだろう。フラジャイルと並んで本作はまっさきに候補に上がるだろう。

本作において、エルフはほとんど無限とも言える寿命を持った長命種である。主人公j・フリーレンは少なくとも千年以上の時を生きていることが示唆されている。そのような中で通常の人間はせいぜい60年から長くとも100歳程度、ドワーフも300年程度の寿命とされている。他の人類とあまりにも寿命の長さが違うエルフは、孤独な存在と言えるかもしれない。しかし厳密には、多くのエルフはその孤独を感じることすらない。既に数え切れないほどの別れを繰り返してきたエルフにとっては、それは当然の日常に過ぎないからである。しかもエルフは元来、恋愛や生殖に興味が乏しいとされており、その永遠とも言える命を持ちながら緩やかに絶望に向かっている。

人間にとっては10年を費やした魔王討伐の旅路は、人生の中心とも言って良い長さである。しかしエルフにとっては瞬きほどの長さでしかない。その前提の違いを思い知ったフリーレンは、人間を知るための旅をする――これがもう、マジで泣ける。

この主題は、エルフに限らないと思うからである。

わたしと同じ人間はどこにもいない。親も子も別人で、親友とも配偶者とも別人である。その事実から目を背けて他人にあらぬ期待をしてしまうことが、わたしを含めて何と多いことか。わたしは本作を読むとアドラー心理学を思い出してしまう。他人と違うことを認め、それでも他人を知ろうとすることの難しさと尊さに、思いを馳せざるを得ない。

ところで、わたしはデンケンというサブキャラクターが好きである。しかし、ここでデンケンがここまでフィーチャーされるとは。

早く10巻が読みたくて仕方ない。