『チーム・バチスタの栄光』

チーム・バチスタの栄光 [DVD]

チーム・バチスタの栄光 [DVD]

バチスタ手術というものがある。

www.jhf.or.jp

肥大した心臓の一部を切除して小さく縫い合わせ、正常な機能を取り戻そうという手術である。もっとも、心臓は筋肉の塊で、心臓が鼓動する限り安全に切除することはできないので、一度心臓を止めてから切除を行い、術後に再鼓動させる。難易度の高い手術だ。その難易度の高い手術を驚異的な成功率で成功し続ける一流の外科医や麻酔科医・病理医・看護師などで構成されたチーム、それが通称「チーム・バチスタ」である。しかしプロ集団であるはずのチーム・バチスタで手術の失敗が立て続けに起こるようになる。心臓が再鼓動しないのだ。これは単なる偶然なのか、医療事故なのか、それとも殺人事件なのか。しかし単なる偶然にしてはあまりにも不可解。そもそもが数十もの手術を成功させ続けてきた集団である上、いくら調べてもミスのようなものは見つからない。そうなると消去法的に殺人事件の可能性が浮上するわけだが、殺人の方法も動機もわからない。もちろん犯人もわからない。

この問題を解決すべく、厚労省から派遣された「白鳥」といういけ好かない男と、不定愁訴(頭が痛いだの疲れやすいだの色々と自覚症状はあるが、いくら調べても原因となる病気が見つからない状態で、メンタルを原因とすることも多い)を対象とした外来を担当する「田口」というお人好しの男が奮闘する……というのが基本的なアウトラインである。

わたしはこの物語がけっこう好きである。とにかくキャラクターが面白い。

一見して悪役のような白鳥、しかし彼は「アクティブフェーズ」という手法を用いている。あえて露悪的に振る舞い、相手の心を逆なでしてすることで本性や本心を浮き彫りにするという手法である。ただの性格という気もするが、その性格とアクティブフェーズがマッチしている。それに白鳥は本質を端的に述べ、問題に一直線に切り込んでいる。

一方、無類のお人好しとして描かれる田口。いわば善人である。彼はその性格も相まって、相手の懐に飛び込んでいつのまにか相手から本心を聞き出す、すなわち「パッシブフェーズ」の無自覚な使い手である。ただ、なぜ田口が素晴らしい人間として描かれているのか、未だによくわからない。人を信じたいという理由ただ一点で、殺人事件かもしれないという現実から目を背け続ける。凡庸さも突き詰めれば無能であり、田口本人に悪意はなくとも、引き起こされる結果を見ると悪でしかない。多少ネタバレになるが、第5話から第6話にかけての術死は明らかに田口がまともに動けば防げたものである。殺人予告が出されていることを知っていながら、そのことを伝えもせず、ただ「手術をやめろ」とワーワー言うだけだ。そして殺人が行われた後、「この殺人予告を早く知っていれば良かった」などとのたまう。おまけに「僕がこの手術を止められたら良かった」と言って、仲の良い年配の看護師が慰める。さらには殺人犯を匿おうとする行動すら見せる。典型的な甘えの構造だ。そして大したことのない事柄でわざとらしく狼狽し、汚らしく涙と鼻水を流す。しかし何だな、あまり役者批判はしたくないが、伊藤淳史は本当に酷いな。キムタク以上に、何をやっても伊藤淳史にしかならない。まあ本作は「ハマり役」なのだが、役というよりは、「ハマり伊藤淳史」という感じだな。

このような物語を、なぜ面白いと思うのか。ひとつは、ここに日本社会もしくは日本文化に特徴的な醜悪さが潜んでいるからである。結果が正しければプロセスなんて何でも良いという白鳥。そして重大なファクトから目を背けて非論理的な意思決定や行動を繰り返す田口。わたしは田口よりも白鳥の方がマシだと思うが、田口の方が人格者だと思う人間もいるのだろう。そして残念ながら、この醜悪な白鳥と田口という2人の人物はまだマシで、二人の周囲には、前例主義・官僚主義・権威主義の病院組織という更に醜い集団が巣食っているのである。

もうひとつは、エキセントリックな人間は(良くも悪くも)得てして現状に風穴を開けるという事実を再認識できるからである。代表例はホリエモンだろう。彼は相手の心情も都合も一切顧みることがない。それで物凄く叩かれたわけだが、結局テレビ業界における見立ては彼の方が正しかった。彼が本当にフジテレビを買収できていたら、フジテレビはここまで凋落しなかっただろう。本作でも、白鳥や田口という両極端のエキセントリックな人間が登場し、風穴を開けていく。

ここからネタバレ

個人的には、最後の犯人は蛇足だったような気がするなあ。天才・桐生先生がバックアップに回り、桐生先生以上の才能を持つ鳴海先生と、万年講師だがクライアント・ファーストを着実に遂行する(つまり天才ではないが努力と誠実さを持つ)垣谷先生、この2人がバチスタを牽引する……そんな未来があっても良かったような気がする。