『美術館を手玉にとった男』@Prime Video

美術館を手玉にとった男(字幕版)

美術館を手玉にとった男(字幕版)

  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: Prime Video
とんでもない数の美術館に贋作を寄贈して、美術界を大混乱に陥れた男をフィーチャーしたドキュメンタリー映画。

この事件――というか何というか――の奇妙なところは、この犯行が金儲け目的ではなく、趣味というか彼自身の心の安寧のために贋作が作られ、美術館に寄贈されているということだ。姉の遺産がどうとか、大抵そんな触れ込みで寄贈されているのである。これらの贋作を作った男は、18歳の頃に1年間ほど精神病院のようなところに収容されていたようだ。今も、どことなく奇妙な感じがする。そして母親の死に激しいショックを受け、未だに乗り越えられていない。一方、父親とは合わなかったようで、彼の様々な精神的・認知的な歪みの原因のひとつであるとも言える。

もうひとつ印象的だったのが、贋作の作り方がだいぶ杜撰というか、適当さがあったところである。もちろん中心の人物はしっかりと模写されている。しかし紙の裏の古ぼけた感じは「コーヒーでも塗っとけば良い」とか言っているし、背景は指でサササッと絵の具を塗り拡げ、雰囲気を出して終わり。素人としては「これで騙されて良いのか」と思ってしまうのだが、いざモノを見ると、指で適当に絵の具を塗り拡げただけなのに、物凄く「それっぽい」ことに驚く。才能なんだろうな。彼自身、自分には模写の才能があると言っている。

なお、この模写の才能は掛け値なしに凄いとわたしは思うので、写真を模写してオリジナル作品を書くとか、贋作であることを明言するなどしても、それなりの値段で売れると思う。つまり彼の模写の才能を用いた経済的な成功の道は、実はあった筈なのだ。しかし彼はそれを選ばない。

なかなか難しい人であり、映画であると思った。