森薫『エマ』全10巻

エマ  全10巻 完結セット  (Beam comix)

エマ 全10巻 完結セット (Beam comix)

1890年代頃のヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台に、貴族の青年(ウィリアム・ジョーンズ)と、ウィリアムが幼い頃の家庭教師(ケリー・ストウナー)のハウスメイド(エマ)の間の、身分違いの恋を描いた物語。ウィリアムは(新興ながら)勢いのある貴族の長男なのに対して、エマは名字もないような一般人。階級意識が根強く残るイギリスでは、そのような二人が結婚することなど有り得ない訳だが、二人は恋を成就させるために様々な障害を乗り越えて……と、まあこういうアウトラインだろうか。
森薫の漫画家としての特長は、自分の好きな対象に対する留保のない深い愛情を一切隠すこともせず、自分の漫画の中にブチ込むことである。家具や服・社会通念といったヴィクトリア調時代のイギリスの暮らしを(マニアならではの執拗さで)徹底的に調査している上、単なる「画力の高さ」や「漫画家としてのウリ」だけではとても描けないほどの漫画界随一の書き込み……凄いの一言。
本編もさることながら、この人は「あとがき」も面白い。「あとがき」は一転して相当なコメディタッチなのだが、はっきり言って笑えます。自分がメイドやヴィクトリア調のイギリスの暮らしやメガネっ娘がどれだけ好きかを強調しまくっているんだけど、ここまで好きだからこそ、こんな濃い漫画が描けるんだよな。