重松清『哀愁的東京』

哀愁的東京

哀愁的東京

主人公の進藤宏は絵本作家。賞を取った『パパといっしょに』以降、もう何年も新作を書かない――書けないまま、フリーライターとして生計を立てている。主人公を知る人の多くは絵本作家業を「副業」ないし「前職」として意識している。それどころか、若い人の中には主人公が絵本作家であることすら知らない……そんな主人公である。
『パパといっしょに』にまつわるトラウマを引きずり、愚痴やモラトリアムや哀しみや居直りを纏い、自分を情けなく思いながら生きる姿――これは重松清の中年の主人公に多く採用される人物像である。いつまでモラトリアムなんだ……と読んでいてイライラする箇所も正直ある。
が、『パパといっしょに』を読んで絵本の編集を夢見て出版社に就職した新人編集者、彼女の存在が、主人公のどうしようもない寂しさと相まって、どうにも良い。「絵本」という柔らかく温かく前向きなモチーフに合った登場人物と言える。彼女は若く、正しい。しかしその若さと正しさが、主人公には辛い。俺はどちらも好きなタイプではないが、少なくとも物語の中では、2人が対比されることにより、より興味深いキャラクターになっている。
現実や過去や自分自身といつまでも向き合わない主人公の姿は、読んでいて息苦しいところもあるが、物語(日常?)の温かさと苦さを感じたい人には、必読。