村上春樹『1Q84 BOOK 1 』

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

村上春樹による最新長編。前作『アフターダーク』は長編というよりも中編に近く、実際の長編となると、2002年の『海辺のカフカ』まで遡らなくてはならない。さすがに待ちくたびれたなぁというのが正直な感想だが、俺と同じ気持ちの方も多かったようで、「2は置いてあるが1が売り切れ」「速攻で100万部突破」などなど、今まさに社会現象を巻き起こしている。
さて、いつも書くのだが、小説の感想を書くのは難しいなあ。特に村上春樹の感想は。ひとまずは、いくつか気づいた点をピックアップするにとどめたい。

  • 主人公がクサい比喩を使ったり「やれやれ」と言ったりしない
  • 主人公に「青豆」「天吾」という名前が与えられている。そりゃあカフカだってそうだったのだが、春樹作品全体で言えば、そういうタイプの作品は少ない
  • 主人公の父親が出てくる。さらには、主人公が父親と向き合っている(向き合おうとする)
  • 明らかにオウム真理教の一連の事件を意識している(ストーリー展開というよりは、モチーフとして、ということだけど)

村上春樹は最近「名作」の翻訳を立て続けに行っているし、カフカを書いたあたりから「総合小説を書きたい」と何度も発言している。俺は「総合小説ってなあに?」というレベルの人間だが、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』がその代表的な作品だそうだ。
その前提を踏まえて以上の特徴を見てみると、なるほど、確かにこれまでとは違う作品かもしれない。あえて村上春樹的な要素を(表面的には)減らしているような気がする。いわゆる「近代」的な小説というか、これまでの村上春樹ワールドには無いような骨太で壮大な物語を「村上春樹らしいやり方」で書こうとしているのかな、と思った。