インキュベ日記

書評2700冊・漫画評4000冊・DVD評400枚の「質より量」な記録サイト(稀に質も重視)

グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』1巻

竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

これは!

めっちゃ面白い!

最近「なろう系」という、異世界ファンタジーものが流行っていると聞く。21世紀の現代社会から突然、剣と魔法のファンタジー世界に飛ばされ、しかしそんなことどうでも良いということで説明も設定もアッサリと割愛され、でも転送された主人公たちは(普通なら剣と魔法のファンタジー世界の住人の方が体力的にもスキル的にも明らかに現代社会の人間よりも高スペックなはずなのに)ファンタジー世界でいきなり無双する、それを楽しむ、というジャンルである。要は、リアリティも必然性も要らないから、ただただ自分が異世界に飛ばされて活躍できたらという妄想を叶えてくれる物語を提供する、それが「なろう系」なのである。*1

本作はそうした作品の真逆にあるアプローチと言って良い。

本作の根底にあるのは、勇者だの僧侶だのと言っても、勇者は「職業」なのだ、という厳然たる事実である。すなわち彼らは、生きる糧として働いている。勇者としてモンスターを討伐する行為、それはサービス提供活動であり、経済活動なのだ。

だから勇者の行く手にはモンスターがいるが、勇者の通った後にはまるで参勤交代のごとく多くの人々が群れをなしてついてくる。パーティー御一行の武器を持ち運ぶ人、パーティーの経験値を記録する人、後方部隊の食事を作って提供する人、その食事のための食材を持ち運び提供する人……中には戦闘に勝った後(あるいは負けた後)に鳴らされるファンファーレ係なんていうのもある。そして勇者がドラゴンを倒した後がまた凄い。ドラゴンの牙・角・鱗・涎などがすぐさま競りにかけられ、日持ちしない肉を解体して持ち運ぶための部隊が街から派遣される。そして主人公はタイトルにある通り、配達人である。勇者のパーティー御一行と一緒に従軍していたが、勇者がドラゴンを倒した事実、すなわち「ドラゴンの死体」という「金塊」があることを知らせる手紙を各所に配達するのである。*2

勇者は世界を救うだけではない。後についてきた人々の懐を潤わせる存在なのだ。

もちろんそうした後方部隊も命がけである。何しろ勇者や戦士と違って、ただの経験値記録官や荷物持ちは、ドラゴンどころかその辺のモンスターにすら勝てないだろう。勇者や戦士が全滅したら、彼らはおそらく生きて街まで帰ることはできまい。しかし彼らは、勇者や戦士の経験値を記録するのが仕事であり、荷物を運ぶことが仕事である。彼らは彼らの戦場を戦っているのである。だから非戦闘職業の人々も、勇者や戦士が戦う間近で彼らを見守り、決して逃げることはない。

何たるリアリティ!

そして何たる夢と希望! この夢と希望は決してバラ色ではなく、手垢にまみれた金色の浪漫なのだ。

これは続きも必読だね。

余談

先日、丸の内オアゾの丸善で『中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク』という本が平積みされており、直感的に凄く気になっていたのだが、その作者は本作と同じグレゴリウス山田であることが判明。んー、十三世紀のハローワークはKindleなしかー。紙の本はかさばるからKindleで買いたいんだが、大版なので紙の方が読みやすいかも。Kindle化されるのを待たずに今すぐ買うべきか迷う。

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク

*1:当然そうしたジャンルとしての底の浅さを逆手に取った作品もあり、それらも「なろう系」として一括りにされているので一概には言えないのだが。まあ今回は、その辺にあまり詳しくないわたしのような人間の一般的イメージだとして捉えていただきたい。

*2:主人公は勇者専属の配達人というわけではなく、普段は普通の手紙を普通に配達していることが多い。ただしファンタジー世界なので住所がまだはっきりしていないことも多く、モンスターの巣食う地域に配達することもある。