白浜鴎『とんがり帽子のアトリエ』2巻

とんがり帽子のアトリエ(2) (モーニングコミックス)

とんがり帽子のアトリエ(2) (モーニングコミックス)

この世界における魔法とは、徹頭徹尾「技術」だ。特別な「魔の墨インク」と決められた「魔法陣」、それさえあれば誰でも魔法を使うことができる――これがこの世界における秘密であり、本作の肝となる設定である。もちろん、魔法陣はアートではない。図形や矢印のひとつひとつに意味があり、きちんと魔法を学ばなければ思い通りの魔法を使うことはできない。その意味では、厳しい修行が必要だ。しかし繰り返すが、意味を知らなくても、インクと魔法陣があれば、素人でもとりあえず魔法を使うことは可能なのである。だから魔法使いはその事実を隠し、魔法を使うところを誰にも見せない。

さて、魔法使いに憧れていた主人公の少女・ココは、ある日たまたま村にやってきた魔法使い・キーフリーが魔法を使うところ、すなわち魔法陣を描くところを盗み見てしまう。しかもココは以前、たまたま(実はこれも大いなる伏線なのだが)それとは知らず道端に座る物売りからインクと「魔法の絵本」なる魔法陣の書かれた書物を手に入れていた。そしてココは興味本位で、魔法陣の模写を始めてしまうのである。それが他人を石に変えてしまう禁断の魔法陣だとは知らずに……。

そしてココは母親を石に変えてしまうのである。

秘密を知ったココは本来、記憶を消されてしまう運命である。しかし「魔法の絵本」に興味を持ったキーフリーの思惑で、幸運にも記憶を消されることを免れる。

そしてキーフリーの下で魔法を学び、母親を元に戻す魔法を探すことになる。実に皮肉な形で、ココは憧れの魔法使いになるのである。

本作を一言で書けば、いわゆる王道ファンタジーであり、少女の成長譚ジュヴナイルということになるだろう。しかし絶望・希望・憧れ・大人の思惑……これらの感情が第1話だけで複雑に絡み合っていく。これだけでも溜息の出るようなお話なのだが、第2話以降、キーフリーの下で学ぶ何人かの少女と知り合ったり、ココに興味を持った怪しげな魔法使いに悪さを仕掛けられたりと、話はどんどんスケールが大きく、そしてスリリングになっていく。

何十回と読み返し、やっと感想を書こうとしたら、いつの間にか3巻が出てた。

それぐらい最高の作品。

なお白浜鴎は絵柄も最高である。「小説家における文体」に該当するものが、「漫画家における絵柄」だとわたしは思う。デッサンが上手けりゃ良いってものではない。しかし基本的な画力は高い方が良い。その方が、漫画家の描きたい漫画に合った絵柄にすることができるし、絵によって表現できることも増えていく。この人は漫画家としての基礎体力というかポテンシャルが凄い。

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ビリー『シネマこんぷれっくす!』1巻

シネマこんぷれっくす!(1) (ドラゴンコミックスエイジ)

シネマこんぷれっくす!(1) (ドラゴンコミックスエイジ)

学園一の変人が集まる映研(通称:死ね部)に入部することになった主人公(♂)と変人たち(女3名+男)による、映画×青春コメディー。

キャラ立ちがイマイチ弱い気もするが、B級漫画の話はけっこう面白かった。

余談

本書とほぼ同時期に『シネマコンプレックス』という短編小説集も発売されていた。こっちもけっこう面白そうなんだよな。

シネマコンプレックス

シネマコンプレックス

サンドロビッチ・ヤバ子+MAAM『ダンベル何キロ持てる?』3巻

ダンベル何キロ持てる?(3) (裏少年サンデーコミックス)

ダンベル何キロ持てる?(3) (裏少年サンデーコミックス)

女子がトレーニングするのをエロい目で眺めるという確信犯的な漫画。

2巻の感想で、そろそろネタ切れになるんじゃないかと書いたが、やはり何となくネタ切れ感が漂ってきた(笑)

でもまだ面白いな。

個人的には、4巻ぐらいで完結させたほうが、スッキリ佳作になって良いのではないかと思う。

能條純一+永福一成 『月をさすゆび』全4巻

アラフォーにして、家庭の事情で僧侶になるための専門学校に通うことになったカメラマンの葛藤と成長を描いた物語。坊主漫画といえば、極私的には岡野玲子『ファンシィダンス』がオールタイム・ベスト級の鉄板なのだが、本作も地味ながらなかなか面白い。能條純一の漫画は(絵柄もあって)どうしてもおカタい感じになりがちなのだが、本作は適度に飄々としているところが良い。

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能條純一+半藤一利+永福一成『昭和天皇物語』1巻

昭和天皇物語(1) (ビッグコミックス)

昭和天皇物語(1) (ビッグコミックス)

昭和天皇のことは正直あまりよく知らなかったのだが、だからこそと言うべきか、たまたまAmazonでリコメンドされて気になり、買ってみた。

能條純一の劇画調の耽美な絵柄が実に合っていて、思い切り引き込まれる。

ただ心配は、このペースだと完結までかなり時間がかかりそうな点。どこまで描くつもりなのかな。面白いのは事実だが、20年描くわけにもいかないよね。

グレゴリウス山田『龍と勇者と配達人』2巻

竜と勇者と配達人 2 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

竜と勇者と配達人 2 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

中世ファンタジー世界における「職業」にフィーチャーした漫画。

主人公はハーフエルフの郵便配達人なのだが、実際に西洋中世であった事実と、作者ならではのファンタジー世界の味付けのブレンド具合が絶妙。

1巻は大絶賛したが、2巻もしっかり面白い。

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あfろ『ゆるキャン△』5巻

ゆるキャン△ 5巻 (まんがタイムKRコミックス)

ゆるキャン△ 5巻 (まんがタイムKRコミックス)

女子高生が、ゆる〜い感じでキャンプをするという漫画。

その意味ではタイトルに偽りなし。

谷口ジロー『神々の山嶺』のように、登場人物が凍傷になるとか野獣のような臭いを漂わせるようなことはない。仕事を放り出してクビになるようなこともなし。女子高生ですから。

でも自分の家ではないところで眠るというのは、アラフォーとなった今でも正直、ちょっと楽しい。ゆるキャンやってみようかな。

冬目景『ももんち』

ももんち (ビッグコミックススペシャル)

ももんち (ビッグコミックススペシャル)

わたしにとって、冬目景は「究極の雰囲気漫画家」という評価である。

雰囲気は良いんだが、あるいは読む前の期待感は凄いのだが、その期待感を読後の感想が上回ったことは(ごく初期の作品を除いて)ほとんどない、というのが正直なところである。

けどこれはそこそこ面白かった。あっさり終わり過ぎという気もするけど。

蛇蔵+鈴木ツタ+たら子『天地創造デザイン部』1巻

天地創造デザイン部(1) (モーニングコミックス)

天地創造デザイン部(1) (モーニングコミックス)

神様の求めに応じて、生物を創造する「部署」がある……換言すれば、神様がクライアントとなり生物をデザインするお仕事漫画、という設定の漫画である。

実際の生物が描かれていたり、空想上の生物であるユニコーンがなぜ生物として成立しないかを描いたり等、どこまで本当かわからないが変なうんちくもあって結構面白い。

アイデア賞。もう少し読みたいなー。

山田芳裕『へうげもの』25巻

へうげもの(25) (モーニングコミックス)

へうげもの(25) (モーニングコミックス)

どうしても「武」よりも「美」や「数奇」に心惹かれる武将・古田織部(古田左介)が、武と数奇の狭間で自分なりの数奇道を追いかけていく一代記……だったのだが、これにて完結。一代記というからには、切腹させられた史実をきちんとなぞらざるを得ないわけで、わたしは読みながら、先を確認したい気持ちと、終わってほしくない気持ち、双方が入り混じっていた。

山田芳裕は「過剰な漫画的表現」で、ふふっと笑わせながらシリアスなシーンや本気のシーンを描くというのが昔から得意だった。そして本作は、まさにその得意技が「凄み」と言えるほどに洗練・昇華されていたと言えよう。なんかもう、他に類例のない大傑作としか言いようがない。早速1巻から読み返したくなっている。名シーンが多すぎて困る。

吉田丸悠『大上さん、だだ漏れです。』2巻

大上さん、だだ漏れです。(2) (アフタヌーンコミックス)

大上さん、だだ漏れです。(2) (アフタヌーンコミックス)

毎日毎日エロいことを妄想し続けている女子高生と、体の一部分が触れると相手が意図せず本音を口走ってしまうという謎属性を持った男子高校生。ということは、2人が手を握ったりすると、女子高生が「ちんこ舐めたい」だの「におい嗅ぎたい」だのといった卒倒モノの言葉を口走ってしまう……というラブコメ。まあ本音が見えるという設定だから、お互いがお互いを意識している今、付き合わないのはかえってリアリティがない。ということで、2巻で早くも付き合うことになりました。ただし付き合うことになってもこの設定の面白さは色々と活かせそうなので、3巻以降も楽しませてもらえそうではある。

ヒロインの、絶妙な「一般ピープル感」が良いんだよね。不細工ではないし可愛らしいのだが、特段の美人ではない。いわゆる十人並みという感覚が、きちんとビジュアルで表現されている。これはけっこう難しい。例えば、モテないキャラや不細工キャラでありながらかなりの美形であるという矛盾は、テレビドラマでも漫画でもよくあることである。あるいは、それを逆手に取った『俺物語!!』という作品もあったが、あれは主人公のガタイが良すぎるだけで、不細工では全然なかった。その意味では、本作のヒロインの「ちょうど良さ」というのは特筆すべき技術というか、キャラクターデザインの勝利というか。事実、脇役のクラスメートの女子の方が美形に描かれている。

ノッツ『初情事まであと1時間』2巻

初情事まであと1時間 2 (コミックフラッパー)

初情事まであと1時間 2 (コミックフラッパー)

初情事ではなく、初情事が行われるまでの1時間だけを描くという、究極の焦らし漫画。

焦らしというか、読んでも読んでもその焦らされ感が解決することはないのだが、でも「そこに着目したかー!」という感覚は新しくて面白い。

やや出落ち感のある設定だが、今のところ2巻も変わらず面白い。

樫木祐人『ハクメイとミコチ』6巻

ハクメイとミコチ 6巻 (HARTA COMIX)

ハクメイとミコチ 6巻 (HARTA COMIX)

身長9センチメートルほどの小人が動物たちと一緒に暮らす世界で生きる、ハクメイとミコチという二人の女の子の日常漫画……という説明で、まあアウトラインは外していないだろう。ハルタらしい、書き込みと見やすさの両立した華やかな絵柄で、読んでいて凄く癒やされるというか何というか。こういう世界で生きてみたいと素直に思ってしまう。ただし6巻は、面白いんだけど、新キャラはほとんどいなかったかなー。この世界は広いから、ちょいちょい新たなキャラクターを出してくれると個人的には嬉しい。

嵐田佐和子『青武高校あおぞら弓道部』1巻

青武高校あおぞら弓道部 1巻 (HARTA COMIX)

青武高校あおぞら弓道部 1巻 (HARTA COMIX)

先日、米澤穂信『さよなら妖精』を読んでいて弓道の描写があったので、弓道が何となく気になっていた。

というより、武道全般だろうか。

柔道・剣道は全国的に流派が統一され、既に競技スポーツ化されていると思う。それが悪いと言うつもりはない。型や技・実力判定方法などが共通化されるメリットも多い。しかしメリットしかないなら、例えば剣道で古流の剣道などは完全に廃れて然るべきだが、そうはなっていない。柔道も同様である。新しい方が「合理的」で「優れている」ならば、古流柔術など絶滅しているはずだが、しかしそうはなっていない。

では、なぜ流派が分かれるのか?

これは素人の考えに過ぎないが、素人なりに考えてみると、もちろん技や型の問題があるだろう。お山の大将的な派閥争いも無縁とは言えまい。しかし流派が分かれる原因として最も得心するのは、武道に対する心構えそのものというか、精神性のようなものなのではないかと思う。普及を優先した、安全性と画一性を追求した競技スポーツとしての柔道と剣道。それとは違う何かを追求した古流剣道や古流柔術。そう考えると個人的にはスッキリする。

そうなると、次に気になるのは、そもそもがマイナースポーツとしての武道は、どういう考えで武道や流派が成り立ち、競技者として鍛錬しているのだろうかということだ。

例えば弓道。弓道は正直、マイナー競技と言って良い。しかし凛とした、張り詰めた空気感がある。かなり昔に何度か生で競技を見たことがあるが、単なるマイナースポーツと片付けられない何かがあるように思った。また、的に当たる当たらないといった点数だけでは片付けられない何かがある。それは日本人ならある程度わかるはずだ……と、『さよなら妖精』でも言われていた。わたしもそう思う。しかし一体それは具体的に何なのだろうか?

今のところ本作は「マイナースポーツ漫画」という感覚しかないが、本書を読み続ければそれがわかるようになるかもしれない。その意味では、けっこう期待している。

ジョージ朝倉『ダンス・ダンス・ダンスール』7〜8巻

ダンス・ダンス・ダンスール(7) (ビッグコミックス)

ダンス・ダンス・ダンスール(7) (ビッグコミックス)

ダンス・ダンス・ダンスール(8) (ビッグコミックス)

ダンス・ダンス・ダンスール(8) (ビッグコミックス)

ダンス漫画であり、ジョージ朝倉漫画であり、青春漫画であり……と、ジョージ朝倉の新たな金字塔だなと思う。

とにかくキラキラと輝くばかりだった主人公も、この7巻と8巻はやや停滞というか試練というか。

でもまあ、物事が上手く進むばかりの物語は流石につまらないし、停滞中の中でも他人の嫉妬や奮起を呼び起こしているところが「主役!」って感じでまた良いんだけどね。