西部謙司『技術力』

サッカーでは、「戦術」については(ある程度)語ることができるそうだ。戦術には必ず狙いがあり、それは言葉で説明のつくものだからだ。けれども「技術」については、言葉を重ねれば重ねるほど本質から遠ざかってしまい、語ることは容易ではない、らしい。そこらへんは専門家でもコアなサッカーマニアでもない俺には「ふむふむ」と頷くしかないところではあるが、とりあえず困難な「技術」という視点からサッカーを語ることに挑戦したのが本書である。「個人編」「ポジション編」「日本人編」の3章から成るが、愛と臨場感に溢れた描写は読んでいて非常にワクワクする。
「個人編」では、ロナウジーニョティエリ・アンリフィーゴロナウドデルピエロミヒャエル・バラックトッティ、デコ、マラドーナが中心的に論じられている。フィーゴのドリブルは素人目ながらネチっこいと思っていたが、なるほど、フィーゴのドリブルは「押して進んでいる」のか。雰囲気をよく掴んだ表現だなぁ。
「ポジション編」では、ストライカー/ウイング/MF(オフェンシブ)/MF(ディフェンシブ)/DF(サイド)/DF(センター)/GKといったそれぞれのポジションの特性について述べられている。サッカーマニアには常識かもしれないが、ストライカーを嗅覚型/ハンマー型/スピード型/ターゲット型/クリエイター型と分類して解説してくれた箇所は、非常に参考になった。また戦術のトレンドの変化から、ウィングが配置されなくなった代わりにクロッサーがピックアップされてきたという話も初耳で思わず頷いてしまった。キャプテン翼の「滝君のライン際ドリブル」を放課後に実践した世代としては、何はともあれウィングは外せませんな!
なお、「ポジション編」でも個々の選手が多く取り上げられている。リケルメ、カカ、ベルカンプランパードネドベドピルロマケレレクリスチャーノ・ロナウド、その他いっぱい。ジダンの描写も多かったかな。マケレレなんかは、「スゴいのはわかるけど、どうも地味な感じだし、どうスゴいのか上手く腑に落ちていない」という感じだったが、マケレレの凄さも技術的に解きほぐしてくれており、大満足。
「日本人編」では、ある仮想のシチュエーションにおいて、小野・中田・中村がどういったパスを配球するか――といった著者の予想から、小野・中田・中村といった日本を代表するパサーのプレイスタイルを分類・解説している。また久保竜彦松井大輔中澤佑二鈴木隆行も特集されている。
サッカー素人にも読みやすく、技術のチェックポイントが具体的。しかも04−05シーズンから題材の大半を選んでいるので、取り上げられたほとんどの選手のプレーは今後テレビなどでチェック可能である。いやはや、至れり尽くせりで非常に大満足!