細野不二彦『ギャラリーフェイク』21巻

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 清香(チンシャン)茶会(前編)
     清香(チンシャン)茶会(中編)
     清香(チンシャン)茶会(後編)
ART.2 二重奏
ART.3 ニンベン師の逆襲
ART.4 花と3(みつ)ばか
ART.5 雨やどり
ART.6 43分の1営業所

この巻では「ニンベン師の逆襲」が特にお気に入り。昔ニンベン師だった木戸は、今は足を洗ってコダワリの婦警イメクラを開業している。何しろ婦警さんでしかイカないという筋金入りの婦警マニアだから、制服や取調室なども本物そっくりで、オーナー自ら率先してイメクラを楽しむ徹底ぶり。しかし自分の店を利用していた客から偽造カード被害が多数出て、警察に疑われる。磁気カード技術は30年前に確立されたフォーマットで、セキュリティの低い古臭い技術である。だからニンベン師のプライドとして、そんなケチなしごとはしていなかったのである。ただ、それでは警察のメンツが立たないとのことで風俗営業を取り消される。木戸はニンベン師としてのプライドと風俗営業の再開を賭けて犯人の特定に動く――というアウトライン。木戸ちゃんは俺の好きなキャラクターである。何しろコダワリがある。ちなみに(詳細は省くが)フジタに恩を売った本エピソードの後、ニンベン師としても活動再開しているようで、ニンベン師としての力量を高く評価するフジタからちょくちょく仕事を依頼されている。