米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

「小市民」を目指して目立たない高校生活を送ろうとする男子高校生が主役の、人が死なないライトなミステリ。この設定を聞くと、同じ米澤穂信による「古典部」シリーズを思い出す。古典部シリーズの主人公は、省エネを自認してはいるものの、仲間に引っ張られる形で、パッションを持った人生も悪くないのではないかと思っている主人公である。やや斜に構えながらも、そういう「らしい」青春も良いよねと思い、たまにはそんなことも実際やってみる……というキャラ設定は、それなりにリアルだし、共感もできる。
しかし本シリーズの主人公は、自分が小賢しい推理能力を持っていることを自認しながら、自分を「小市民」という理解しづらく感情移入しづらい存在になろうとする人間だ。そもそも「小市民」になりたいという発想が自分を優越的に捉えている証拠である上、本当に小市民に収まってくれるならまだしも、ちょいちょい推理能力をひけらかして、同盟関係(本書では互恵関係と言っている)を結んだヒロインと、お互いを隠れ蓑や盾にして、責任なくモノを言える場所に安住しようとしている。加えて、それを隠すために友人を小賢しく利用しようとして、クラスメートにそれを指摘されたりしている。
シリーズものだが、これって何が面白いんだろうね?
本屋で序盤だけ目を通したところ、期間限定・本日最終日・1人1個の「春季限定いちごタルト」が盗まれて茫然自失のヒロイン……という、あまりにスケールの小さな事件の勃発に(ある意味)感動して買ってみたのだが、主人公のキャラクターに馴染めず、やや期待外れという感じである。既に続編の『夏期限定トロピカルパフェ事件』も買ってしまったので、一応続編も読んでみようとは思うが……。
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