米澤穂信『追想五断章』

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

米澤穂信のミステリ。

主人公は、親戚の古書店でアルバイトをする大学生。と言っても家庭の事情で学費が払えず、さてどうしようという時に、古書店に来た女性から「父が生前に書いたリドル・ストーリーを探してほしい」と依頼される。リドル・ストーリーとは「結末をぼかした作品」のことらしい。依頼主は、父の遺品を整理するうちに、5つのリドル・ストーリーの結末の一文だけを発見したことで、生前の父がどんな小説を書いていたのかを知りたくなったということのようだ。なお、リドル・ストーリーは全部で5編あり、ひとつ見つけると10万円の報酬である。大学生には破格の報酬といえ、主人公は古書店店主の伯父に秘密で、この依頼を引き受ける。そして主人公は調査を続けるうちに、依頼主の父が22年前に起こった未解決事件「アントワープの銃声」に深く関わっていることを知る……というプロローグ。

主人公が5つのリドル・ストーリーを順に探していくというのが基本的な流れなのだが、本作は色々と凝っている。

  • 5編のリドル・ストーリーと、結末の一文は、どれとどれがセットなのかがわからず、内容を熟読してそれっぽいもの同士を結びつけるしか解決策がない。
  • 「アントワープの銃声」は、依頼主の父親が妻(依頼主にとっての母親)を殺したのではないかと言われている事件だが、父親は容疑を否認し、証拠不十分で不起訴である。この「アントワープの銃声」での真実は今のところ依頼主の父親しか知らない状態である。
  • リドル・ストーリーを発見するたびに、作中作として、リドル・ストーリーが挿入される。このリドル・ストーリーは、明らかに「アントワープの銃声」を意識して書かれたものである。

主人公は明るい人間とはとても呼べず、大学に戻るため、伯父に隠れてコソコソ依頼をこなすような人間である。伯父も、昔は仕事熱心だったらしいが、今はパチンコ優先で、とても仕事熱心には見えない。主人公のことも、まあ邪魔ではないから世話してやっているぐらいの感覚で、人間的な絆があるような感じでもない。何と言ったら良いんだろうね、この独特の空気感。