森博嗣『笑わない数学者』

笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

大学教授・犀川創平と教え子・西之園萌絵の師弟コンビが探偵役を務める「S&Mシリーズ」の第3弾。偉大な数学者、天王寺翔蔵博士が住む館で開かれたパーティーに参加することになった犀川創平と西之園萌絵は、天王寺博士が庭にある大きなオリオン像を一瞬で消すというイリュージョンを目の当たりにする。だが夜が明けて再びオリオン像が現れる頃には、二つの死体が現れた。師弟コンビは殺人事件の謎とオリオン像が消えた謎に挑む……というアウトライン。
謎解きもキャラクターも相変わらず魅力満点で面白いのだが、本書あたりから、西之園萌絵の事件に対する無邪気過ぎる興味というか首の突っ込み具合が気になりだす。前回、かなり危険な目に遭ったのに、全く反省することなく、盲目的に事件にのめり込むのである。そして本書でも(先取りすれば第4弾でも)危険な目に遭う。犀川創平はその態度に幾度となく警鐘を鳴らすのだが、今のところその態度が改まる気配はない。加えて西之園萌絵は、死体を見てもほとんど死者を悼むとか怖いとかショックとかいう気持ちがほとんど起こっておらず、むしろ目の前の謎にウキウキしてしまっている。明らかに異常な人物造形と言って良い。西之園萌絵は16歳の頃に両親を飛行機事故で亡くして半年間引きこもっているのだが、そのトラウマと何か関係しているのだろうか。