坂月さかな『星旅少年』1〜2巻

星旅少年1

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星旅少年2

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遠未来の宇宙を舞台としたSFファンタジー。

「トビアスの木」の毒を一定量浴びると、人は眠りから覚めなくなってしまう。そしてその人自身も「トビアスの木」になる。トビアスの木はだんだんと宇宙規模で広がり、人々はどんどん減り、宇宙は緩やかに衰退しているようである。そのようにして、ほとんどの住人が眠ってしまった星は「まどろみの星」と呼ばれているが、これらの「まどろみの星」を訪ね、残された文化を記録・保存するプラネタリウム・ゴースト・トラベル社(通称PGT社)の 星旅人・登録ナンバー303を巡る物語、それが本書である。303には名前がなく、303には「トビアスの木」の毒が効かず、そしてトビアスの木に愛着を抱いている――。

恒星間航行を可能とするほどの技術力を持ちながら、いやだからこそなのか、人口爆発は起こっていないようで、人はまばらである。まどろみの星は言うまでもなく、トビアスの木の影響を最小限に押さえている活気のある星でも、21世紀の現代社会の人口密度には遠く及ばない。そしてそれほどの技術力を持ちながら、トビアスの木の毒には対抗できず、PGT社のようなささやか、かつ穏当な抵抗が関の山。緩やかな衰退、これも典型的なディストピアの形なのだろう。

不思議な世界観だが、不思議な魅力があり、引き込まれる。

2023年春には3巻も発売されるそうなので、そちらも購入したい。