木村剛『竹中プランのすべて――金融再生プログラムの真実』

本書は竹中プランや不良債権問題や構造改革について木村剛が解説する本だが、いま木村剛は最も金融や経済のシーンで注目されている人物の1人である。日銀の主要局を歴任し、独立後は竹中プランの設立に重要な役割を果たし、中小企業融資に特化した新銀行の設立に動いている。外資の手先と揶揄されることもあるが、アツい思いを胸に秘めている。木村剛が解説する竹中プランの姿は、既存のマスコミ報道や銀行の抵抗勢力の意見とは全く違った表情を見せている。

俺は経済や金融に精通しているわけでは全然ないが、「構造改革は早くやるべきだ」という思いをずっと持っている。不良債権の処理は他の多くの国が通過してきたものであり、また日本より致命的だと言われていた韓国が既に不良債権の処理をほぼ終わらせているからである。どうせやらなきゃならないのなら、より歪みが大きくなる前に早くやるべきのような気もするし、所詮「景気が回復してから構造改革を」なんて意見は大衆迎合に過ぎないような気もする。海外のマーケットは不良債権の処理が終わらないこと自体を問題としているのだから――というのが、その理由である。それは本書を読んでも基本的には変わらなかった。

もちろん竹中の政策や木村剛の考え方が100%正しいとまで断言できる知識や能力は俺にはないし、そのつもりもない。しかし、政策策定側の思惑は、もう少しフェアに伝えられるべきではないだろうか。マスコミの垂れ流す小泉や竹中の考え方と、本書で木村剛が述べる竹中の思惑は、かなり異なっている。ここまで一方的に政策の一部分だけが歪めて取り上げていることに対しては、もっと問題とされるべきであろう。そもそも、小泉や竹中の構造改革に対して、「骨抜き」という批判と「ハードランディング」「弱者切り捨て」「痛みが強すぎて立ち直れない」という批判が同時に起こるのは、どうも前から釈然としないものがあるのだ。うまく説明できないけれど、反対方向のベクトルの批判が、同じメディアから同時に発せられることが、どうにも納得できない。

本書を読んでいくにつれて、銀行や金融庁・政治家・既存のマスコミ・債権放棄してもらってのうのうと生き延びている問題企業に対して、俺はだんだんと抑えがたい怒りが沸き起こってきた。知らないところで、既得権益層が、逃げ切るためだけに日本をめちゃくちゃにしている。社会や俺らの未来を食いつぶしている。そう思えてしまう。繰り返すが、木村剛が100%正しいとまでは思っていない。もちろん竹中の政策や木村剛に対する再反論も十分に可能だろう。しかし俺は今のところ木村剛に軍配を上げたい。逃げ切ることだけを考えている既得権益層を絶対に逃がしたくない。それに木村剛の言うことは決してキレイゴトだとは思えない。むしろ厳しい現実と微かな希望である。対談というか講義形式なので、わりと読みやすいと思うし、ぜひ読んでほしい。少なくとも木村剛は日本に対する熱意を持っている。今のところ、期待大。

なお本書の発売日は2003年3月18日だが、木村剛は本書の中でちょっと面白いことを言っている。最後に少し引用しておきたい。

 「金融再生プログラム」――いわゆる「竹中プラン」が成功したかどうかは、この夏までに決定するでしょう。三月期決算の結果が明らかになり、その結果を踏まえた各主要行の対応が固まったところで、その成否ははっきりしてきます。

 その頃までに、不良債権が消滅することはありません。問題が完全に消え去ると言うこともないでしょう。しかし、不良債権問題の解決に向けたはっきりとした道筋が示されて、その道筋をナビゲートする金融庁に対するマーケットの「信頼」が回復するかどうかについてはかなり明確になるはずです。

金融庁に対する信頼が回復したとはとても思えないが、景気の動向には(予断を許さないながらも)少し明るさが見えてきた。もちろん対外的な景気に引っ張られた面が強いということは俺も知っているが、「痛み」も先が見えてきたと書いた新聞だったか雑誌だったかを見た覚えもある。今度の選挙は、小泉と菅直人の対決になりそうだが、小泉や竹中の思惑がどれほど正しく伝えられたのか、構造改革が菅直人のマニフェストに対してどれほど評価されるか、それらが今度の選挙でわかりそうだ。