大西泰斗+ポール・マクベイ『一億人の英文法』

やっと、英語の「やり直し」に相応しい1冊目に出会えた気がする。
高校生や浪人生は「話せるようになる」前に大学入試を突破する必要があるため、他の英語参考書との親和性を考慮すると、本書を薦めるメリットを私はあまり感じない。しかし大学入試を既に終えた大学生や社会人には、凄くメリットのある本だと思う。
本書のコンセプトを一言で書けば、副題にもある「話すための英文法」である。学校文法にとらわれることなく、話すために必要な知識と言う観点で英文法を再整理し、読者に提示している。そして著者の大西先生が説く英語の最大の特徴は、英語とは「配置のことば」であるということだ。英語は、日本語のように主語を抜いたり語順を自由に変えたりすることができない(できにくい)代わりに、繊細な助詞や助動詞を覚える必要がなく、決められたルールに乗っ取って単語を配置するコミュニケーションが成立する。だから英語における表現力とは、そこに配置すべき言葉の選び方によって上下する。また、決められた言葉の配置を敢えて変更する場合、そこには話者の気持ちが明確に立ち表れる……というのが大西先生の主張だ。
本書は、そうした大西先生の主張を踏まえ、英語が「配置のことば」であることを徹底的に意識できる構成になっている。英語が「配置のことば」であることから、まずは、何をどこに配置すべきかの根本ルールである「英文法の骨格」すなわち基本文型と、骨格を構成する動詞と名詞を学ぶ。次に、英文を複雑にし、また状況や話者の気持ちを繊細に説明するための「修飾」ルールを学ぶ。ここまでで配置のイロハは学べたので、その後は、より自由に英語を使うための要素(ING形やTO 不定詞・過去分詞など)を学ぶ。さらに、配置転換のルールや時制を学び、最後に文の流れを整える接続詞や省略などの細かいテクニックを学ぶ……といった感じで、とにかく本の構成が素晴らしい。
学び方も、細かいルールを暗記するよりは、「気持ち」や「意識」に目を向けて、なぜこういう表現が生まれ使われていくのかという観点で説明しているのだが、これがまた「読み物」として面白く、600ページを超える大著であるにもかかわらず比較的一気に読み進めることができた。
私は、わりに感覚的に英語を読むことはできていたのだが、英文法の細かい用語などは覚えていないため、さあどうしようと思っていたのだが、私は大学入試を既に終えているのだし、少なくとも初心者の段階では、枝葉末節よりは、使いこなすための基本ルールを押さえていくことと、気持ちを理解し使いこなしていくための実践の方が重要だなということがわかり、自信も持てた。
極めて良い本である。大推薦。
この後、どう勉強しようかな……。