大西泰斗+ポール・マクベイ『総合英語FACTBOOK これからの英文法』

総合英語 FACTBOOK これからの英文法

総合英語 FACTBOOK これからの英文法

悪癖

わたしには大変な悪癖がある。

英語の教材だけを買って勉強しないという悪癖である。

社会人になって以降、英語ができないと駄目だという漠然とした問題意識があるのと、元々本を買ったり読んだりするのが好きなのとで、冗談抜きで数百冊は買っている。けど大抵は、買って満足するか、最初の方だけ読むか、気になったところを適当に拾い読みするか、一通り通読して満足して終わる。

(恥ずかしながら、これまでに買った英語本の一部は読了本としてこのブログにも載っている。後生だから、どうか検索はしないでほしい。)

自分でもこれは駄目な流れだというのはわかっている。だからそれを変えようと、本屋で新しい参考書を見つけたりネットで○○が良いと聞いたりすると、本屋で何時間と内容をチェックしたりネットで評判をチェックしたりしては、ふむふむこれは確かに良いかもとか言いながら、いそいそと買ってきて……あとは同じだ。自宅に積み上げるのである。バベルの塔というか、ピサの斜塔というか、砂上の楼閣というか、賽の河原というか……いや、メタファーなんてどうでも良い。とにかく無駄なことをやっているという自覚はあるが、形から入るという悪癖のため、新しい本を買ってまたリセットしようとするのである。

当たり前だが、買うだけではやれない。

英語なんて多少参考書や問題集が良かろうが悪かろうが、それよりもとにかく「やる」方が重要だというのは誰に言われずともわかっている。

しかしやれないのである。

「投資をすれば後戻りできなくなるから勉強するようになる」これは少なくともわたしにとっては嘘だ。

「英語を使わねばならぬ状況に身を置けば習得できる」これも嘘だ。大変な失敗をして、損もしたが、それでも死なないという学びが残った。

そして自己嫌悪とともに、さらに新しい英語の教材を買うのである。

もちろん自業自得としか言えないので、誰のせいにもしたことはないし、しようとも思わない。しかしここで書いておきたいのは、これは本人的にもなかなか苦しいのである。金銭的にもダメージが大きいが、実は心理的にもダメージがデカい。自分の意志の弱さというか、自分の駄目さ加減を、数百冊という英語教材が日々、わたしを責め立てるのである。山のように積み上がった教材と、翻って全く身についていない自身の英語力を対比すると、そりゃあ落ち込む。それが嫌で本棚から撤去して段ボールにしまって押入の中に入れたり、果ては自炊(紙の本を裁断してPDFで読み取って電子データ化すること)もした。そうすると直接的には目に届かなくなるが、そんな情けないことをした自分の罪状を脳は常に覚えていて、たまに押入を覗いたり、また別件で自炊本のPDFデータを見た時に、カウンターのようにわたしを襲ってくるのだ。

本書について

そろそろ本題に入ろう。

「今度こそ本気で英語の勉強をしよう!」と言って結局また新しい本を買うという駄サイクルから抜け出すことを、今更ながらわたしは決断した。

少なくともこの参考書や問題集だけはやったと、ボロボロになるまで読み込んで暗記したと自信を持って言い切れる英語の参考書を作ろうと思う。

さて、何からやるか?

英語の勉強は本当に多岐に渡る。ほんと嫌になるが、英語という代物を要素分解すると、結局「単語」と「文法(単語を配置するルール)」と「発音(単語を音として認識するためのルール)」の3つの要素しかないという指摘をネットで見て、なるほどとしっくり来た。こう考えると、(イディオムや慣用表現なども含む)単語の勉強は死ぬまで続ける必要があると思う。一方、文法と発音は(マスターするのには長い道のりが必要だとしても)勉強すべき事柄は限定的だ。

そう考えると、まずは文法を1冊か2冊、死ぬほど(と言っても限度はあるので5〜10周)やり込もうと思った。

で、自らの英語教材をチェックすると、ポイントだけを復習できる文法書、辞書のような網羅的な参考書、喋り口調で丸暗記せず云々、音読しながら云々、中学校のやり直し英語、大学受験用の参考書に問題集、TOEIC用の一問一答式の問題集、TIPSだけを集めたもの……ほんと自分でも嫌になるぐらいたくさん持っていた。英文法だけで数十冊はある。おまけに英文法の派生とも言える、構文や英文解釈の本も山ほどある。で、その中で一冊だけ選んだのが本書だ。

まず1冊を5〜10周しようというのだから、あまり抜け漏れがあって他の参考書も見なきゃ全然駄目だよねって話にはしたくないので、基本的には網羅系の参考書を選ぼうと思った。フォレストとか、ロイヤル英文法とかね。けどわたしは大学入試を解くわけではないし、TOEICも結果であって目的ではないので、問題を解くよりは感覚的に使いこなせれば良い。

そうすると、ぴったりなのが大西泰斗という人である。大西泰斗という人は、英文法の本を何冊も出しているが、英文法を暗記ではなく、ネイティブのイメージや自然な感覚を重視して理解してほしいという信念を持つ。だから説明も適度に感覚的だし(ゴリゴリ品詞分解して英文解釈ルールを体系的に解説してという感じではない)、その感覚を養うためには音読しまくって例文暗唱しまくってくださいねというような感じで、勉強というよりはトレーニングをやりたいわたしのイメージにも合っているなと思った。

さて、大西泰斗はかなりたくさんの参考書を出しているのだが、現在最も有名で主著とも呼べる本は『一億人の英文法』である。社会人が英文法をゼロからやり直すための本で、非常に評判も高いし売れているのだが、何しろ600ページもある。それに感覚的に理解してほしいという意識が強すぎて、やや説明に変なくどさがあるなと思ったのと(「あーあれねとピンとくる!」「みんながピン!とくる共通イメージ」)、ちょっと文字が小さかったりレイアウトが独特だったりもする。さらには、文型を5つではなく4つで説明していたりして、何となく違和感があった。

一方、本書は『一億人の英文法』の考え方をベースにしながら、学校教材として作られたものである(よって当初は市販されなかったのだが、人気があるので一般の書店でも売られるようになった)。だから大西泰斗の思いはビンビン伝わってくるが説明の変なくどさはないし、学校で教えている文法に合わせているから他の参考書との平仄も取れ、紙面もカラフルで見やすく、紙面もフォントが大きくなって500ページであるため、『一億人の英文法』よりは多少手に取りやすい。

ま、一言で書くと、わたしの直感に最もフィットしたのである。

今、とりあえず2周した。1周目はとりあえず読んで、2周目は自分がわかっていない、ないし文章でパッと出たときにすぐ認識できないなと思う箇所をチェックした。また章末の問題を解いて(でも章ごとの問題だと予測がつくから間違えづらいんだよな)理解があやふやな箇所を見つけ、やはりチェックした。読んでみてわかったのは、わたしは文型の基本はわかっていても、知覚動詞だの使役動詞だのを全く覚えていないので、getやmakeが出たときに全く文型を取れてないなと思った。また準動詞、特に動詞の原形が出たときの文法を覚えてないとか、関係詞と疑問詞の一部がごっちゃになっているとか、省略が出たときにめちゃくちゃ弱いなとか、仮定法けっこう忘れてるよなとか、比較級もマニアックな表現は忘れているなどと、幾つか文法上の苦手なところはわかった気もする。

3周目からどうしようかな。別冊で出ている『総合英語FACTBOOK 例文完全マスター』を使って音読しながら理解を深めるという方法もある。大西泰斗自身、文法は音読しまくって体に染み込ませよという主張をしている。わたしも同感で、「わかる」だけではなく「使える」ようになりたいよね、やっぱり。