森玲奈『ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成』

ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成

ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成

「ワークショップ実践者のデザインにおける熟達」に焦点を当てるという、超マニアックな本である。

わたしはそもそも、ピンポイントで「ワークショップ」について特段の関心を持っていたわけではなかったが、本書によればワークショップデザインとは「ワークショップのプログラムを企画し、それに付随する学習環境デザインを行うこと」であり、これ自体が創造的活動であるため、創造的活動における熟達化研究と捉えることが可能、という指摘に興味を持って手に取った。いわゆる企画マンやマーケターに代表される、ビジネス職種の中でも創造的とされている方の熟達とは一体どのようなものか、興味を覚えたからである。

本書は正直、どこまで行ってもワークショップデザインに閉じた研究なので、創造的活動全般に対しての普遍的な何かが導出されているかと問われると、個人的には「うーん」と言わざるを得ない。ただ、ワークショップデザインの熟達化研究というテーマ自体が極めて類例のないものであるし、見方によっては、普遍的な示唆も幾つか得られそうである。

例えば、ベテランと初心者では、ワークショップのデザインの過程に顕著な違いが出ている。ベテランは、依頼内容の確認・解釈やコンセプトを決定し、活動の全体像を決め、タイムスケジュールを決め、細部を決めるといった、いわゆる「大きなものから決めていく」という構造的なアプローチを採っている。一方、初心者は、とにかくいきなり細部の検討に入っていくのである。これはワークショップに限らず、そもそも「企画」の段取り力の高低が顕著に表れている。

また、専門家として深く考え、実践するようになった契機のようなものもインタビューされている。繰り返しの中で一定の知見は当然蓄積されるわけだし、一緒にデザインを協働した方や、他実践者に刺激を受けるのもあるだろう。しかし、「やはりね」と思ったのは、ワークショップ参加者に存在した「気になる人」に刺激を受けて、次回以降のワークショップが深化するという声である。ワークショップは一方的な研修や講義ではなく、双方向の体験である。一方的に学ばせるのではなく、デザインする側も学びを得るのは当然だ。

でもまあ、かなり限られた方しか本書を手にとることはないかもしれないなあ。