今野敏『空席 隠蔽捜査シリーズ』

空席 隠蔽捜査シリーズ (Kindle Single)

空席 隠蔽捜査シリーズ (Kindle Single)

個人的に今ハマっている隠蔽捜査シリーズの……何なんだろうか。紙の書籍では発売されておらず、Kindle本のみで読める短編である。隠蔽捜査シリーズの長編は現在7まで発売されており、8が小説新潮で連載中である。8の発売が待てないわたしのようなファンに向けたサービスということなんだろうか。

この短編の主人公は大森署の所轄幹部、特に副署長の貝塚である。以下、ネットで調べたらすぐ出てくるので少しだけネタバレするが、大森署署長へと降格人事を食らった主人公(竜崎)は、数年間の禊を終え、神奈川県警の刑事部長に異動することになった。そのため大森署には新しい署長が赴任することになるが、前任の大森署署長(主人公)を見送り、新しい署長が明日到着するという「空白の一日」に、厄介な問題が立ち上がる……というアウトラインであろうか。

長編8からは、主人公を取り巻くキャラが大きく変わるので、大森署のメンバーの活躍もこれで見納めかもしれない。やや名残惜しい気もする。魅力的なキャラが結構いたからね。

補足

続きモノなので以前に書いた本シリーズの紹介を、初見の方のために再掲しておく。

本作はいわゆる警察小説である。なので事件が発生して解決する推理ドラマと、警察組織の中でのドラマ、そして主人公の家庭内ドラマ、この3つのドラマが基本的に平行して走ることになる(最初の2つだけのこともある)。しかし本作は他の多くの警察小説と異なる点があり、主人公は警察官と言っても現場の刑事ではなく、キャリアである。警察官僚とも呼ばれる上層部のエリートなのである。さて、ここからはネタバレを含むので簡単に書くが、主人公は元々キャリアであることに大きな誇りと使命感を抱いており、順調に出世もしてきた。だが、自身の信条である「原理原則」にこだわった結果、1巻のラストで大森署の署長という降格人事を受けてしまう。しかし主人公は、独自のキャリア信条に忠実に、たとえ降格されても公のために働き続けるという選択をし、降格人事を受け入れる(通常は皆この時点で辞める)。そして降格先の大森署で、辣腕を振るい始めるのである。