OJTソリューションズ『トヨタの問題解決』

トヨタの問題解決 (中経出版)

トヨタの問題解決 (中経出版)

相当スッキリまとまっている。
まるでコンサルティングファームの方法論のようだ。
だからこそ嘘くさい。
なぜなら生粋の技術者や職人による問題解決は、コンサルタントが小綺麗にフローを書くような問題解決フローとは、絶対に違っていると思うからである。具体的には、以下のような世界が絶対あるはずだ、と私は思う。

「これは……多分あれだな」
「あれですか」
「おう、Bが怪しい。おめえ、できるか」
「はい、やってみます」
「慎重にな。できたら声かけろ、俺も一応見とく」

「理由? しゃらくせえ! この設定でやってみろ!」
「でも……」
「俺の勘では上手く行くはずなんだ! 責任は俺が取るからとにかくやってみろ!」
「……できました!」
「そうか、そうだろう。じゃあ改めて分解して、今度はゼロから検証するぞ」

この2つをもう少し普遍的な言葉で説明すると、この道何十年の職人や技術者は、以下の点でゼネラリスト的なホワイトカラーと違っているのではないか、ということである(あくまでも本書を読みながら考えた仮説)。

  • 同じことを何度も何度も延々と繰り返して膨大な経験を蓄積していることで、「勘(直観)」が異常に発達している。
    • これは、棋士の羽生善治の発言を思い出しながら書いた。彼は「大局観」という言葉で説明していたが、彼は対局中、数十・数百という読み手を、まさにこの大局観で2つか3つに絞り込むらしい。が、これは理屈で考えているわけではない。理屈をすっ飛ばした勘(直観)のなせる技である。だからこそ早いのだが、理屈では説明できない(正確に言うと理屈で説明はできるが、後付けになる)。
  • 理屈ありきだけではなく、自分たちでトライアンドエラーを繰り返しながら物事をより良くしている。
    • これは、例えばデザインコンサルティングファームのIDEO(アイディオ)に代表されるプロトタイプ重視のスタイルにも通ずるところがあるけれど、必ずしもグローバルのデザインファームだけがやってきたことではない。優秀な日本の現場は、常にトライアンドエラーを繰り返してきた。その考え方や動き方を体系化・標準化してシックスシグマが生まれたが、その基になっているのはこういう「やらんかな」精神であろう。

まとめよう。
トヨタに代表される優秀かつ長い経験を持つ職人・技術者は、明晰なコンサルティングスキルだけを駆使して問題解決をしてきたわけではない、と思う。その暗黙値が解明されていない以上、「トヨタの」という書名は片手落ちであり、本書に高い評価をつけることはできない。