村上春樹+安西水丸『ランゲルハンス島の午後』

村上春樹のあたたかいエッセイが安西水丸のイラストと絶妙のハーモニーを奏でる本。「小説家・村上春樹」的に重要な作品ではない。そうした文脈で語られることはほとんど(あるいは全然)なく、地味な作品かもしれない。しかし俺はとても好きである。必読。表題作「ランゲルハンス島の午後」というエッセイは、イライラするときに読むと心を豊かにしてくれる。これは、中学に入った春、忘れてしまった生物の教科書を家まで取りに戻る際の話なのだが、まあ筋を説明することで「ランゲルハンス島の午後」に触れた気持ち良さを説明することなんてできやしない。読むしかないね。必死に走り続けることでしか得られない感覚もある。しかし、足を止め、ゆったりと寝転んで空を眺め、自然の息吹の中に身を置くことでしか得られない感覚もある、ということだ。