斎藤環『「ひきこもり」救出マニュアル』

「ひきこもり」救出マニュアル

「ひきこもり」救出マニュアル

俺自身ひきこもりという存在に対して強い関心を持ち続けているが、ひきこもりの定義は曖昧であり、必然ひきこもりをめぐる議論も曖昧さや感情論を避けることが難しいように思う。そのことを著者自身も認めているが、著者の活動が際立って素晴らしいと思うのは、徹底して臨床的な立場からひきこもりを語っているところであろう。
本書は400ページを超える大部であり、一息で読むことは難しい。しかし、ひきこもりに対する重要な視点が満載である。ひきこもりの人々は決して自分から喜んでひきこもっているわけではなく、むしろ深い葛藤と挫折を抱えていること。つまり彼(彼女)ら自身、心の底では「このままでは行けない」と思っているのであり、そのような人に「正論」を言うことで、より追いつめられてしまうこと。それを踏まえた上での、親や兄弟の関わり方。万能の回答など存在しないだろうが、かなり有効だと思われる内容も多い。この問題に関心のある方はぜひ読むべきであろう。
ちなみに、斎藤環の著書で「ほほー」と思ったことが2つある。1つは、ひきこもりとインターネットとの関わり。俺自身はあまりインターネットにハマりすぎると閉じこもる傾向が強くなるように思っていたが、ひきこもりの人にとっては、インターネットという窓が開かれることは非常に重要なのだそうだ。
もう1点は、ひきこもりの人がしばしば昼夜逆転生活に入ってしまう理由である。日光を浴びていないとかいう生理的な問題を別にすれば、ひきこもる人々は平日の朝早くから起きて無為な生活を送ることに精神的に耐えられないため、無意識のうちに夕方から起きて明け方に眠る生活を送ってしまうのだ――というものである。以前のインキュベ日記で書いたかもしれないが、自身の経験を振り返ってみても強く納得できることなので、再び書いておきたい。