重松清『舞姫通信』

舞姫通信 (新潮文庫)

舞姫通信 (新潮文庫)

新人教師の主人公の勤務する女子校では、「舞姫通信」と呼ばれるものが不定期に教室に配られている。10年前に学校で自殺した女子高生、通称「舞姫」の話である。なぜ彼女が死んだのか、理由はわからないが、10年前から現在まで「舞姫通信」はずっと続いており、誰が作ったのかも何人が作っているのかもわからない。ただ、ひとつ言えるのは、「舞姫」はもはや実際に自殺した女子高生としてではなく、女子高生の死への漠然とした憧れの象徴として存在している、ということ。その「舞姫通信」を、理由なく自殺した双子の兄を持った主人公は、複雑に眺める。一方、自殺した双子の兄の恋人は、自身の勤める芸能プロダクションから「自殺志願者」のタレントを売り出し始めた――といったアウトラインだろうか。
入り際は面白いと思ったのだが、「自殺」という行為に深い縁を持った登場人物が次から次へと都合良く出てきて、ヒネている俺は冷めてしまった。あと、作者の意図とはたぶん異った形で俺は受け取ったのだろうが、「舞姫通信」というクサい素材によって、「自殺」というテーマが随分と安っぽくなったような気がする。