- 作者: 渡辺浩弐
- 出版社/メーカー: アスキー
- 発売日: 1999/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
本書で使われているものは既に「仮想科学小説」シリーズで提起されたような技術や発想が大半であろう。それら1つ1つの技術を取り出せばワクワクするような可能性にも満ちていたものの、シリーズを読む限り、著者は必ずしも科学技術の際限なき発展を好意的に捉えているばかりではなさそうだ。「小説だよ」と割り切ったゲーム的なブラック・ストーリーの中に、時折「ゲーム・キッズ」の申し子の物語を通した強い危機感が透けて見える。
実際、本書のような社会は単なる「ゲーム的な夢物語」や「SF世界」とは言えないだろう。科学技術が発展を遂げ、人間の力や自由度や可能性が増していくにしたがって、「誰に管理されているのかもわからない管理社会」「管理されていることすらも気づかない管理社会」に知らず知らず変貌を遂げていくという本書の発想は、2999年の到来を待たずとも2007年現在の社会で十分に議論可能なリアルな視点だからである。住民基本台帳、指紋認証や手の平認証に代表されるバイオメトリクス認証技術、街の至るところどころか家庭にまで設置されている膨大な数の監視カメラや盗聴器、自国内レベルでは既に複数の国が実現していると言われる(エシュロンに代表される)通信傍受システム――全ての人間が否応なく組み込まれる監視社会は着々と構築中である。