大塚英志『キャラクター小説の作り方』

キャラクター小説とは、いわゆるスニーカー文庫やコバルト文庫のような小説(正確な定義は本書を参照)である。俺は別にキャラクター小説に興味があるわけではないので、当初は本書を買おうかどうか迷っていた。しかし姉妹本とも言える『物語の体操』が非常に面白かったし、大塚英志は気になる存在なので、エイッとばかりに買ってみた。大塚英志の非常に幅広い活動を一言で説明するのは難しいが、本書の経歴には「まんが誌のフリー編集者、まんが原作者、評論家、小説家として活躍」と書いてある。付け加えるなら、論争好きで、版元と問題を起こすことが多く、評論家としては戦後民主主義者であることを自認しつつ文学評論も思想評論も行う、といった感じだろうか。ただ大塚英志は「戦後民主主義的な教育を受けた戦後民主主義者」ということに非常に自覚的で、自己のスタンスを相対化しているので、その点は凄くわかりやすい。というか、俺は大塚英志の社会に対する誠実なスタンスに好感を覚えるほどだ。

『キャラクター小説の作り方』という書名ではあるが、ハウツー的な要素を求めるなら、具体的なトレーニングが豊富に掲載された『物語の体操』を読む方が良いだろう。ただ『物語の体操』は単なるハウツー本では全然ない。まず小説をスポーツになぞらえ、小説を書く技術をスポーツにおいての技術や基礎体力とみなす。そしてどこまでが小説家におけるオリジナリティで、どこまでが(スポーツにおける技術や基礎体力のように)習熟可能な領域であるか、その線引きをしたいと考え、実際にトレーニングメニューを作成して線引きをしてみせる。そのことで、従来「作家の資質」と思われていた領域にも、実はトレーニングによって習熟可能な領域が多いことを証明してみせる――といった内容だ。キャラクター小説だけではなくてサブカルチャー全体や文学にも数多く言及しているので、キャラクター小説というジャンルに限定されることなく、創作全般においても非常に示唆的な本だと思う。

さて、話を戻すと、本書は大きく4つの内容から成る。まずは「キャラクターと小説との関係性」について。ここでは、オリジナリティとキャラクターの魅力はどのような関係にあるのか、登場人物は作者の意図通りに動くのか、それとも勝手に動き出すのか、物語における「私」とはどのような存在なのか、そういった問題を探っている。次に「ストーリーや世界観と小説との関係性」について。ここでは、お話のパターンと面白さはどのような関係にあるのか、世界観や細部の設定と主題はどのような関係にあるのか、そういった問題を探っている。さらに「小説と現実との関係性」を探り、最後に「キャラクター小説と近代文学の関係性」を探る。本書も『物語の体操』と同じくサブカルチャー全体や文学にも数多く言及しているので、キャラクター小説というジャンルだけでなく創作全般において有効な本だと思うし、創作しない人にとっても非常に興味深い。丁寧に説明してくれているので、サブカルチャーや文学に明るくない人でも全く問題はない。

最後に少しだけ付け加えておくと、本書は必ずしも『物語の体操』の続編というわけではないけれど、『物語の体操』で主題的に論じられていた「小説とオリジナリティ」をめぐる問題は、本書でも依然として主題的に論じられている。だから『物語の体操』を踏まえた方が本書を理解しやすい部分もあるし、議論が次のステップに進んでいる印象を受ける。より包括的に深く知りたいのであれば、できれば本書よりも先に『物語の体操』を読んだ方が良いかなと思う。朝日出版社の単行本で俺は読んだが、今は文庫版(朝日文庫)も出ている。