高橋陽一『ゴールデン★キッズ(上)』

ゴールデンキッズ 上

ゴールデンキッズ 上

高橋陽一は「ボールはトモダチ」で知られる『キャプテン翼』を生み出した漫画家である。というかほとんどの方は『キャプ翼』くらいしか知らないだろう。そして、その『キャプ翼』は、誤読されている。実は単なるサッカー漫画・青春漫画の枠を超えて、ギャグ漫画としてもシュールレアリスムとしても通用する要件を備えているのである。立花兄弟のスカイラブハリケーンなんて、その好例であろう。スカイラブハリケーンを実演しようとして骨折した猛者もいるくらい、少年漫画を超越した技なのである。
もちろん高橋陽一は『キャプ翼』以外にも高橋陽一は名作を数多く生み出している。個人的に最も好きなのは『キーパーコーチ』というマニアック極まりない作品である。クライマックスが実に良い。主人公とヒロインがキスをした後、主人公の心の内がモノローグで示される。

ファーストキスは
その名の通り
レモンの味がした

「その名の通り」ってナニ!?
……まあ俺とツレの中では「巨匠」と言えば堺正章ではなく高橋陽一を指すほどなので、巨匠の漫画を語り出すとキリがない。早々に切り上げて本題を始めることにするが、本書は、漫画家の高橋陽一が初めて執筆した児童小説である。
主人公の剛流(ごうる)は、サッカーチーム「ゴールデンキッズ」のキャプテンでゴールキーパー。翼や岬と違って決して天才ではないが、努力家で練習好きである。しかしゴールデンキッズは弱い。当然まだ一度も試合に勝ったことがない。それどころか、小学校の先生や町会長が「いじめの問題になる」と解散を迫るくらい弱いのである。残る3回のリーグ戦で1勝できれば存続させるという約束は取り付けるも、チームのみんなも諦めてしまい、やる気は出ない。しかし剛流はヤル気満々である。何としても1勝したかった。あと1ヶ月で、剛流は遠くに引っ越してしまうからである――というアウトラインであろうか。親の事情(≒子どもの引っ越し)を絡めてくるとは、さすが巨匠、ベタながら意外に読ませる。
というか本来ゴールデンキッズのコーチを引き受けるはずだったチームメイトの父親はリストラに遭い失業中だし、代わりにコーチを引き受けてくれることになった女性は(将来を嘱望された天才女子サッカー選手だったのに)突然の事故に遭い下半身不随の車椅子生活。さすが巨匠、児童文学なのに、世間の不条理や辛い現実も遠慮なく見せつけてくれます。
ところで肝心の文章力は……そういうのは野暮ってもんです、ええ。巨匠だから、そういう文章の上手下手といった次元は既に卒業しております。