谷川流『涼宮ハルヒの分裂』

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

  • 作者:谷川 流
  • 発売日: 2007/03/31
  • メディア: 文庫
涼宮ハルヒシリーズの第9作。長編。

続きモノなので、このエピソードは第10作以降で決着する……はずなのだが、発売延期が続いており、本書が現時点での最新作である。本書が発売されたのが2007年4月1日で、第10作『涼宮ハルヒの驚愕』が2007年6月1日発売予定だったが、もう2年以上音沙汰なし。どうなっているんだろうなあ。まあ色々あるのだろうが、そろそろ著者や角川は、現状や今後の見通しを読者に向けて発表するべきだろう。シリーズ9作で累計580万部(2009年6月現在)も売っといて「なしのつぶて」では、読者に失礼ではないだろうか。

なお本書では、4月になって登場人物が新学年に進級しただけでなく、今後のシリーズ全体の展開を左右する重要なキャラクターが何人も登場している。しかし色んな情報や伏線や関係性が提示されたにも関わらず、それらの複線の回収やエピソードの解決は全て第10作以降なのである。ぜひとも決着をつけてほしいと思う。
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余談

涼宮ハルヒシリーズに限らず、漫画やアニメ・ライトノベルなどのファンの中には、その作品を受け手として享受するだけにとどまらず、その世界観やキャラクターを引き継いで自分たちでオリジナル作品を作り出す人々がいる。その行為/作品を二次創作(物)あるいはSS(side story/short story)と言うそうだ。俺にはSSを書く趣味も読む趣味もないのだが、第10作『涼宮ハルヒの驚愕』の発売情報を求めて検索していたら、たまたま『涼宮ハルヒの微笑』という有名なSSがあることを知った。試しに読んでみたところ……めちゃくちゃ面白い! 思わず最後まで読んでしまった。しかし面白さと同時に感じたのは、作者の谷川流は大変だろうなあということである。

そもそも涼宮ハルヒシリーズは角川スニーカー文庫というライトノベルレーベルから出版されており、設定や文体・登場人物の造形・イラストなどは極めてライトノベル然としており、敷居も低い。しかし設定のベースには、(複雑とは言えないまでも)それなりにしっかりとしたSFギミックが散りばめられている。*1

またライトノベルの新作の発表こそ止まっているものの、アニメは現在第二期が放映中である。新たなファンはますます増えることだろう。

つまり涼宮ハルヒシリーズは、ライトノベルファン・SFファン・アニメファンがそれぞれ、SSという形で今後の展開を予測したり、1文節・1単語に至るまで詳細に分析して設定上の矛盾を探したり、プロ顔負けの本格的な評論を書いたりするのである。で、その中には、この『涼宮ハルヒの微笑』のように原作顔負けのSSもあるだろうし、ファンの展開予想やSSの中には、谷川流が密かに構想してきたアイデアと重複するものもあるだろう。

物理学や量子力学の最先端の知見を存分に活用したハードSFなら、素人が考えたネタなど恐れる必要もないだろうが、涼宮ハルヒシリーズは結構「アイデア勝負」的なところも多いので、ネットやコミケで評判を集めたSSが自分の構想とかぶっていることを知ったら、やはり出しづらいだろう。パクったとか言われるだろうしね。

もちろんこれは人気者の宿命という奴で、結局のところ、ファンの想像を超えるクオリティやアイデアの作品を出すしかないのは事実である。しかし一昔前に比べると、やはりネットやコミケによって、これらの情報がファンの間で「同期」される度合いは、以前よりも格段に高まっている。

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*1:『SFが読みたい!』を時系列で追っていく中で理解したように、昨今SFとライトノベルはジャンルのクロスオーバーが進んでいる