- 作者: 岩谷昌樹,谷川達夫
- 出版社/メーカー: 税務経理協会
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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- 国内外市場それぞれの「地域の知識」(テリトリアル・ナレッジ)
- 取引コストの削減につながる規模の経済性
- リスクを分散できる大きな内部市場
- 取引コストやリスクを吸収する金融サービス
しかし通常、本業とのシナジー効果の薄い業務は資本の効率性の観点から売却すべきと言われているし、GEのようないわゆる巨大コングリマリットも単に巨大化・多角化を進めるだけではなく、シナジーの薄い事業や収益性の低い事業を大胆に売却し、自身の強みを発揮できる事業ポートフォリオを更生してきた。そのような中で、果たして「総合性」を高めれば本当に「総合力」も高まるのか、という疑問が湧く。もっと言えば、総合商社の持つ「総合性」はただ取引のラインナップを広げれば良いのか……という俺の(あるいは多くの読者が持つ)素直な疑問に対して、本書は以下のように論じている。
これらの側面から導き出される総合性は、製品・地域・機能のいずれかでも特化してしまうと、発揮することは難しくなる。取り扱い製品を特定のものだけにすると、製品に関する知識が限られてしまう。活動地域を定めてしまうならば、マネジャーの世界観が狭くなって、グローバルな事業展開への理解が不足してしまう。
一方で機能を縮小することは、取引に関連する付随的なサービスを減らすことになって、総合商社の比較優位を失うことにつながる。さらには垂直統合による情報へのアクセスも少なくさせてしまう。
事業の選択を進める総合商社にとっては、確かに製品の面(取り扱い製品の幅や事業分野の数)での総合性は今後、競争原理にもとづく市場のメカニズムに沿ったかたちで絞り込まれていく。
しかし、選択によって残る事業はマーケットニーズにもとづいたものである。そこに従来以上にリソースの集中がなされ、商社機能の基本となる取引や金融、投資、情報機能がハイブリッドなかたちで連鎖されるならば「機能の総合化」が徹底される。限られた数と幅の取り扱い製品ではあるが、その中での関連性を追求できる。
このような機能の総合化の過程では、取り扱うことを決定した製品に対する先行投資やそれに関連する事業投資が必要である。さらに、それらの投資を取引活動と結びつけていき、投資と取引との「二重構造的比較優位」を確立することが欠かせない。
総合商社の取り扱い製品の選択は、事業的な広がりを止めることを意味しても、機能的な総合力を失うということにはつながらない。投資や取引といった基本的な商社機能が集中的に統合されることで、総合商社はこれからの時代に適した機能のライフサイクルを新しく生み出せる。
これからの総合商社は、単に製品・地域・機能を無秩序に肥え太らせることではなく、取引機能およびそれに付随する投資・金融・情報機能を提供できるだけの規模を保ちつつ、今後のマーケットニーズに合わせて製品ポートフォリオを組み替えていくことが重要である。言い換えると、「総合性」を発揮すべきなのはあくまでも「機能」であり、それが引用箇所のラストに載っており本書のタイトルでもある「商社機能ライフサイクル」というキーワードに繋がっている、と理解した。