田坂広志『なぜマネジメントが壁に突き当たるのか』

なぜマネジメントが壁に突き当たるのか―成長するマネジャー12の心得

なぜマネジメントが壁に突き当たるのか―成長するマネジャー12の心得

一昨日の田坂広志『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』と同様、先輩に渡された本。

  1. 要素還元主義には限界がある。ベイトソンが「複雑なものには、いのちが宿る」と言ったが、社会は複雑系である。複雑なものを分析して単純なものに分解し尽くしたとき、その事象の本質は見失われる。要素還元主義が、真の問題解決を妨げている。
  2. 「問題分析」→「原因究明」→「原因除去」→「問題解決」という直線的な思考には限界がある。なぜなら、企業における問題は「直線構造」ではなく「循環構造」だからである。問題解決思考が、(逆説的に)真の問題解決を妨げている。

この2点の指摘を読んだとき「まさしく俺も今コンサルティングの現場で、そう実感している!」と膝を叩きそうになった。無意識の世界ではこれほど明瞭なのに、言語化しようとした瞬間に失われる、俺がコンサルティングアプローチに対してもやもやと感じ続けていた実感、その正体が、本書を読んで綺麗に整理された。
田坂広志の本にハマってしまいそうだ。
面白いエピソードを、もう1点だけ紹介したい。

 熟練のマネジャーの斎藤氏が、極めて重要な商品開発プロジェクトの意思決定に直面しました。事前の市場調査も徹底的に行い、会議でも衆知を集めて議論を尽くしたのですが(略)決断がつかないのです。
 (略)
 会議の参加メンバー全員からは「斎藤さん、決めて下さい」との声が無言で伝わってきます。メンバーは斎藤マネジャーの力を信頼しています。最後は斎藤マネジャーの直観力に賭けようとの雰囲気です。
 そうした雰囲気の中で、斎藤マネージャーは目をつぶり、しばし黙して考え込んでいましたが、ふと目を開けて言いました。


 「よし、サイコロを振って、決めよう…」


 唖然とするメンバーを尻目に、偶数ならプロジェクトの実施決定、奇数ならプロジェクトの実施見送り、と勝手に決めて、斎藤マネジャーは意を決したようにサイコロを振りました。
 全員が注視する中で、果たしてサイコロは「偶数」と出ました。プロジェクトの「実施決定」です。
 その瞬間に、斎藤マネジャーが言ったのです。


 「やはり、このプロジェクトの実施は見送ろう」


 さらに唖然とするメンバーを前に、彼は確信を込めて言葉を続けました。


 「いま、サイコロの目が偶数の『意思決定』を示した瞬間に、心の深くで、『いや、違う』との声が聞こえた。自分の直感は、やはりプロジェクトの実施見送りを教えている。自分は、その直感を信じるよ」


 斎藤マネジャーは、自分の直観力を引き出すために、サイコロを振ったのです。

何かを決めて口に出した瞬間「やっぱりこっちだった!」と思うことは、よくある。実は俺も、この「無意識への語りかけ」を意識的に行っている。それはレストランで昼飯や晩飯のメニューを頼むときである。迷ったとき、適当に迷った候補を選んで「ハンバーグ定食」などと頼むのである。すると頼む直前、あるいは頼んだ瞬間、「いや、俺が本当に食いたいのはエビフライ定食だ!」と、心の深くで直感できるのである。それは時には、自分が候補として全く考えていなかった「日替わり定食」のことすらある!
俺らしい、等身大の矮小な話に落ち着いたようで……。