つるの剛士『つるの将棋七番勝負』

つるの将棋七番勝負

つるの将棋七番勝負

つるの剛士といえば今でこそ釣りや将棋などの多趣味で知られるが、昔はいわゆる「おバカタレント」だった。

わたしは馬鹿なのは仕方ないと思っているが、馬鹿そのものを売りにするのは見苦しくて好きになれない。デブやらチビやら服が真っ赤とかはまあ「個性」として認知する余地があるが、馬鹿というのは個性ではなく能力が未熟なだけだと思うからである。加えて「おバカタレント」は、自分の実力以上に自分を馬鹿に見せて笑いを取ろうとする。その手技が「能ある鷹は爪を隠す」のことわざのごとくスマートであれば良いのだが、やっていることと言えば誰でもわかる問題をわざと間違えてみせるという程度のそれこそ馬鹿が馬脚を現す程度でしかなく、その様はピエロや道化というにも未熟で無様で、とうていわたしは面白いと思えなかったし、馬鹿が馬鹿を演じる無様な演目で笑う大衆もまた馬鹿なのだ。

閑話休題。そんなこんなでわたしは「おバカタレント」の代表格であったつるの剛士のことは別に何の興味も抱いてはいなかったし、どちらかと言えばやんわりと嫌いな方だったのだが、友人が是非にというので借りて読んでみたところ、印象が一変。この人、面白いな。何が面白いって、別に面白いことを言ったりやったりするわけではないが、「趣味人」として自分自身がしっかりと楽しく振る舞っている。大の大人のそのような様を見るのは、実はけっこう面白かったりするのである。そして将棋。将棋の「観戦記」は当然ながら将棋に詳しくないと地味な戦いになるのだが、本書はつるの剛士が棋士から上手く話を引き出しており、読み物としても普通に楽しめる出来である。

第二弾(つるの将棋女流七番勝負)もあるらしいから、こちらも是非読んでみようと思う。