木村亮示+木山聡『BCGの特訓』

副題は「成長し続ける人材を生む徒弟制」である。この徒弟制という言葉に惹かれて買ったのだが、正直、徒弟制を掘り下げた本では全然ない。単にBCG(ボストン・コンサルテイング グループ)というコンサルファームのパートナーが、自身の経験に基づくプロフェッショナル人材育成のポイントを書いているだけである。もう少し補足すると、本書の内容自体はそれほど悪いものではない。しかしそれほど独自性のある内容ではないと思った。

上記からわかるとおり、わたしは最近徒弟制というものが凄く気になっている。ただこれは別に懐古主義でも、モーレツ主義でもない。理由は2つ。

まず、徒弟制では良くも悪くも「教えない」「技術は盗むもの」という一般的なイメージがある。もちろん仕事の遂行に必要な知識を全く教えないようでは話にならない。しかし実際のところ手取り足取り教えても手間がかかるばかりで成長しないことも多く、この「教え過ぎない」という姿勢は、企業における育成として重要な観点ではないかという個人的な感覚が最近ある。最近は一部の研究者によって「認知的徒弟制(Cognitive Apprenticeship)」という概念が提唱されており、モデリング(modeling)、コーチング(coaching)、スキャフォールディング(scaffolding)、フェーディング(fading)というステップで徒弟制における学びを構造化した研究もある。

もうひとつは、MBAで教わるようなことなど1500円も出せば書籍で手に入れられる現在、フレームワークやチェックリストや計算式といった簡単に言語化できるノウハウではなく、必ずしも言語化して教えることができない右脳的・属人的なノウハウこそ重要で、かつそれは徒弟制に代表される「見て学ぶ」「盗む」ことで伝承可能なものではないか、という仮説である。寿司の握り方という表面的な話であれば、数日から数週間もあれば実践可能だが、その先にある「本当に旨い寿司を握るノウハウ」は必ずしも数週間で得られるものではない。ビジネスにおいても同様で、有名なフレームワークは本屋に行けば1000円か1500円で大抵のものが載った本を買い、知ることができる。しかし使いこなすことができるとは限らない。もっと言うと、既存のフレームワークをパクることを前提としている限り、知的労働は難しいだろう。作り方を覚えなければ。

徒弟制についての本があれば読んでみたい。少なくとも書名で「徒弟制」を全面に出した本はほとんどなく、どうやって調べようかなと思っているのだが。

徒弟制・徒弟制度についてもう少し補足

経営コンサルティングファームにおいて、こうした徒弟制的な要素は正直かなりあるとわたしは思っている。と言っても、以前とは徒弟制によって身につくものの種類が異なっている。30〜50年前、そもそも戦略コンサルティングファームのノウハウはファーム内に秘匿されていた。そしてそのノウハウの多くはMBAで基礎固めされていた。そしてそのノウハウを切り売りするだけで大きな尊敬と報酬を得ることが可能だったのである。今はどうか? ファーム出身者がMBA教授や一般企業に転職することで、一部のファームに秘匿されているようなノウハウはほとんど無い。それどころか、上記でも書いたようにMBAで学ぶ内容は1500円も出せば書店で購入可能なのだ。

もう一度書く。今はどうか? わたしはこのような現状で、それでも書籍に落ちていないノウハウというものが確かにあると思う。それはわたしの理解では、チェックリストやフレームワークや計算式といったわかりやすい何かではなく、何年も修練を続けてきたコンサルタントによる経験に基づく属人的なノウハウで、感覚や直感と呼ばれるもので、優秀かつ真面目なコンサルタントが10年や20年続けることでしか身につかないものだ。