古我知史『戦略の断層 その選択が企業の未来を変える』

戦略の断層――その選択が企業の未来を変える

戦略の断層――その選択が企業の未来を変える

本書は、企業の成長ステージが決して連続的ではなく、断層的で挑戦的なものだという認識をベースに、以下7つの企業ステージ別に、企業の成長ステージ別に「基本的な戦略」「事例」「フレームワーク」を解説した本である。

  1. 備えの断層戦略――「備える」断層の経営
  2. 参入の断層戦略――「突く」断層の経営
  3. 足固めの断層戦略――「構える」断層の経営
  4. 展開の断層戦略――「攻める」断層の経営
  5. 成熟の断層戦略――「守る」断層の経営
  6. 転換の断層戦略――「破る」断層の経営
  7. イノベーションの断層戦略――「離れる」断層の経営

事例とフレームワークは共に豊富である。特に成長ステージ別の企業事例が数十社あるのが極めて面白い。ただし個人的には、フレームワークの解説まで盛り込んだのは失敗だったと思う。フレームワークを網羅的に紹介することが主眼に置かれており、吉野家は「帰納法」によって戦略を見直して成功した――といった風に、ひとつの企業事例の解説としてひとつのフレームワークを当てはめる形になっている。しかしながら、戦略策定がそれほど単純なものでない(ひとつのフレームワークや思考法だけで戦略が決められるようなものではない)ことは、著者自身が強く認識しているはずである。結果、この部分に無理が生じており、企業事例とフレームワークの結びつきがかなり恣意的で、かつ後付け的である。
改善案としては、「吉野家がなぜ成功したのか?」を、成長ステージを意識しながら複数フレームワークで解析してくれたら、(今でも面白いのだけれど)もっと格段に面白くなったのではと思う。しかし、そうなると、同じフレームワーク複数の成長ステージで何度も出てくるし、記述も今以上に分厚く複雑にならざるを得ない。今でも400ページ近くの大著なので、実際には難しいかもしれない。またフレームワークの紹介はこの数年かなり増えてきているし、本書のような「成長ステージ別の企業戦略と企業事例の解説」という魅力を持った本が、フレームワークの紹介まで欲張って盛り込む必要はないのだと思う。
まあフレームワークの取り扱いについては不満もあるが、成長ステージ別の企業事例をざっと頭の中に入れるだけでも十分に役立し、面白い。エッセンスは仕事にフィードバックできそうだ。