三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部『図解 不動産証券化とJ-REITがわかる本』

不動産金融ビジネスに係る入門書。

以下の3冊をセットで読んだので、感想は3冊まとめて書きたいのだが、どれが一番良いかと問われるとけっこう難しい。どれも一長一短というか。

  • 田淵直也『入門 J-REITと不動産金融ビジネスのしくみ』(以下、田淵本)
  • 脇本和也『講義形式でわかりやすい不動産ファンドの教科書』(以下、脇本本)
  • 三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部『図解 不動産証券化とJ-REITがわかる本』(以下、三菱本)

まず不動産金融ビジネスを最も広く捉えているのは、田淵本だと思った。そもそも「不動産金融ビジネス」というとき、本来金融商品でない不動産を金融商品として組成・流通させるために「証券化」することを指すが、この証券化商品の収益の源泉(これはあくまでわたしの感覚的な理解の言葉で、専門的には原資産や裏付資産というらしい)は当然、普通は不動産そのもの、もっと言うと賃料収入や売買損益がベースになる。これがいわゆる不動産ファンドなわけである。

一方、不動産を担保とする貸出債権(抵当権付貸出債権/モーゲージ)を裏づけにして発行される債券型の証券化商品をMBS(Mortgage Backed Securities)と呼び、これも極めて重要な不動産金融ビジネスなのだが、田淵本以外では書かれていない。脇本本と三菱本はあくまで不動産ファンドに限定した本である。不動産ファンドについてだけ知りたいのであれば脇本本か三菱本で良いのだが、MBSについても知りたければ田淵本を手に取ることが必要だ。

なお田淵本では、裏付資産と対象不動産で区分している。わたしなりに少し文言を変えて整理すると以下のようになる。

裏付資産(収益の源泉) 対象不動産 主な証券化の形態
不動産担保貸付証券(モーゲージ) 居住用不動産 機構RMBS・民間RMBS
不動産担保貸付証券(モーゲージ) 商業用不動産 CMBS
不動産そのもの(賃料収入・売買損益) 商業用不動産 不動産ファンド
不動産そのもの(賃料収入・売買損益) (不動産開発) 開発型不動産ファンド

いきなり実務的な内容が書かれているだけでなく、この手のメタな分類がある方が、わたしは好きだ。

それなら田淵本だけ読めば良いかと問われるとこれがまた難しく、田淵本は不動産金融ビジネスの各プレーヤーに対する記述がほとんどない。もちろんスキーム図はあるのだが、いきなり複雑なスキーム図がドンと出てくる割に細かな解説は少ない。例えば、オリジネーター(証券化不動産の当初所有者)はなぜ不動産を証券化したいのか? このスキームにおけるテナントや資産運用会社の役割は? そういった記述は、脇本本(著者の脇本和也は三井住友信託銀行の方である)や三菱本の方が100倍しっかり書いてある。特に脇本本は、ビジネス以前のそもそもの不動産ビジネスについてしっかり記述しているのも良い。それでも総合的な記載の分厚さとか網羅性で言うと、やはり三菱本になるのかなあ。分量は多いけれども、各プレイヤーの動機(なぜ不動産証券化ビジネスに関与したいのか)や役割が明確に記載されていて、しっかり読むとしっかり理解できる。

設例:不動産ファンドの超ざっくりとしたお金の流れ

不動産ファンドについては自分なりに数値を置いてお金の流れを整理した。本当はホワイトボードやノートに書いた図もアップするとわかりやすいんだけど。

  • ある商業施設があり、それを証券化スキームで小口化し、それを20人の投資家 × 証券化商品1つ10億円 = 200億円の物件譲渡価格でSPCが買い取ったとする。
  • SPCはこの商業施設を運営していくわけだが、テナント区画は100件あり、単純化するためにテナント料は全て100万円とする。すると毎月100万円のテナント料 × 100件 × 12ヶ月 = 年間12億円の賃料収入が毎月発生。不動産の維持管理コストが年間2億円だとすると、投資家に配当されるお金は10億円である。投資家は20人いるので、10億円 / 20人 = 0.5億円が投資家あたりの年間配当額となる。
  • 不動産ファンドは、物件の入れ替えを前提とした永続的なものもあるが、一旦このファンドの運用期間は10年間と仮置きする。10年間だと、0.5億円 × 10年間 = 5億円が得られる賃料収入の合計である。
  • さて10年経ったので、この商業施設を他のファンドに転売して精算し、預り金を投資家に返却したい。この商業施設への客足は順調で、今後も安定して賃料収入が見込めるため、取得価格と同額の200億円で売却できたと仮定すると、200億円 / 20名 = 投資家あたり10億円を、投資家に戻すことになる。
  • これらの結果、各投資家は、10億円の出資に対して、10年間で5億円 + 10億円 = 15億円の収益が得られる。10年間で利回50%だから、単純平均で年間5%かな。

上記は概念的なもので、そもそも各数値はわたしが現場を知らずテキトーに置いたものだし、重要なコストやリスクが入っていない。

大きなコストとしては、まず、物件の取得や売却には様々な手続きが必要で、そのコストが上記には入っていない。次に物件の維持を年間2億円と置いているが、おそらく数年に1回大きな修繕が発生するはずだがその費用も計上されていない。またリスクとして、テナントが常に埋まっているとは限らないし、客足が伸びなければ賃料の値下げリスクもある(逆に客足が伸びれば賃料の値上げ交渉が可能かもしれない)し、精算時に取得価格よりも低い金額でしか売却できないかもしれない。また投資家からの出資金額だけでなく、金融機関からの借入も利用する可能性があるため、そうすると金融機関への利息の返済も必要である。