清涼院流水『感涙ストーリーで一気に覚える英単語3000』

ルー語と呼ばれるものがある。ルー大柴のギャグで、「寝耳にウォーター」「藪からスティック」「トゥギャザーしようぜ」など言葉の端々を(大抵はいい加減な)英語に変えるというものだ。

しかしこの「日本語の要所要所に単語ベースでカタカナ英語を挿入する」という文章術・会話術自体は、帰国子女や外資系企業・ITベンチャー・コンサルなどの社員がよくやっているのである。「Todayはunfortunatelyなことにrainingだから、umbrellaを差さなければならない」まで書くとさすがに意識高い系の帰国子女という感じでネタっぽくなるが、わたしの勤務先では実際「予定が空いている」と言えば良いのにavailableと言うし、期限と言えば良いのにデッドラインと言うし、アサイン、レベニュー、マイルストン、アチーブ、ゲス(guess)、パーパス、ディベロップメント、チャレンジポイント、オープン、クローズ、イシュー、トランザクション、インフォメーション、インビテーション……言い始めるとキリがない。

前述のように、世間的にはこれらを指して「意識高い系」と揶揄する向きもあるが、使っている当人(少なくともわたしの勤務先)としては意識の高低の問題ではなく、単に便利だから使っているのである。外資系だと英語資料や英語を元に検討された資料が多く、それを翻訳してニュアンスが変わるよりはそのまま英語をカタカナ読みする方が良いとか、外国人と仕事をする際にもやりやすいとか、そういう理由である。

そして面白いことに、実際に何度も日常的に使うのでニュアンスを含めて覚えてしまうのだ。

例えば、アイデンティティ、コンプライアンス、サステナブル、キャンセルカルチャー、ノブレス・オブリージュといった言葉は、英語としてはそこそこ難しい部類の単語になるのではないだろうか。しかしもはや「日本語」として日常的に使われているため、一般的な社会人であれば、今これらの言葉の意味やイメージを理解できる人は多いと思う。

そんなわけで「ルー式英単語記憶法」は気になっていたのだが、本書はまさにそれで覚えようという英単語帳である。泣けるストーリーを日本語で読んでいく中に、ところどころ英単語や英熟語が入っているという建て付けだ。

ただ単語のセレクトがかなり簡単で、かつ連語も「I promise.」といったイディオムでも何でもないものが入っている。

アプローチは良いんだけどなあ。