森川ジョージ『はじめの一歩』1〜140巻

ボクシング漫画の金字塔。

いじめられっ子だった主人公がボクシングと出会い、憧れで始めてみると、家業の釣り船屋を手伝っていたことで平衡感覚や足腰の強さが身についており、魅力的な仲間やライバルにも恵まれてどんどん強くなる――と、そういう話なんだけど、本作のポイントは、最強を追い求めたり、倒すことに快感を得たり、何かの使命感があったりと、そういう主人公では全然ないということだ。

いじめられてばかりで、殴られても家業を馬鹿にされても何もできなかった主人公。強くて憧れていたが漁で事故に遭って帰らぬ人となった父親。いじめられっ子だった自分をボクシングに導いてくれた鷹村。強いことは格好良いことなのだと教えてくれた宮田。そんな自分を見出してくれてとことん鍛えてくれる会長――主人公の幕之内一歩は強さに憧れているのだが、元々が優しすぎる性格であり、その憧れを正確に自覚は出来ていない。ただ、真面目さが故に「強いとはどういうことなのか」を本人がとことん知りたいと思っている。そして、強い人が集まるプロの場に身を置き、プロと切磋琢磨する中で、知れるのではないか――要はぼんやりとした「強さ」への憧れだけで、ここまでの努力をして、ここまでの成果を出しているのである。

ボクシングは厳しい。特にプロボクシングは、憧れだけで続く世界ではない。しかし主人公の幕之内一歩は信じられないほど厳しい鍛錬を重ね、憧れに駆動されて日本チャンピオンまで辿り着く。「努力至上主義」という古い構造の漫画といえば、そうなのだろう。しかし胸を打つ!

これは正確には漫画ではなくアニメの切り抜きだが、これを目にしたことのある方は多いだろう。

読み手に「やることをやったか?」と突きつけてくる。

なお、本作は120巻ぐらいから「主人公がプロボクサーを引退してトレーナー見習いとなり、脇役だけでボクシングシーンを牽引する」という謎展開の最中である。まあ最後は復帰すると思うんだが、実際の時間でもう何年、主人公は引退しているかなー。そろそろ復帰させてほしいんだけどね。