泰三子『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』10〜11巻

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(10) (モーニング KC)

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(10) (モーニング KC)

  • 作者:泰 三子
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: コミック
ハコヅメ~交番女子の逆襲~(11) (モーニング KC)

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(11) (モーニング KC)

  • 作者:泰 三子
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: コミック
ノンキャリアの現場警察官あるある漫画なのだが、10巻と11巻を読んで、正直驚いている。これが作者の初の漫画だとはね。

10巻と11巻はキモとなる巻である。以下、壮大なネタバレは当然しないけれども、その部分に一定程度踏み込んで書く。

安定しているからというだけで警察官になり、警察学校を卒業したばかりの女性主人公は、交番勤務となる。そして1巻の冒頭で、パワハラで刑事部のエースから交番勤務に異動となった元エースの女性の先輩とペアを組む――というプロローグだった。なお警察では原則ペアで仕事をし、先輩格をペア長、後輩格がペアっ子と呼ぶらしい。わたしは当初その設定に何の疑問も持たずに楽しんでいたわけだが、読み進めていくうちに、なんとなーく、気になっていた点もあった。例えば、ペア長はパワハラで異動となっているが、異動というわりにはパワハラ加害者と被害者が相変わらず同じ署にいて、よく一緒に仕事をしているなーと。しかも言葉遣いは多少粗いけどけっこう仲が良い。他にも、パワハラの割にはパワハラ講習を受けている様子がない点、そもそもパワハラめいた言動が一切ない点、などなど。

でもわたしは、作者は本作がデビュー作かつ初めて書いた漫画だということで、なるほど設定の作り込みがちょっとだけ甘かったのかな、でも気になるほどの話ではないしそもそも漫画として物凄く面白いから問題ないね、ぐらいに思っていた。

まさかこれが壮大な伏線・前フリだったとはね。

もうひとつ、本作のタイトルも凄い。そもそもハコヅメとは何だろう。読者はわかっている。第1話で、先輩指導員が交番のことをハコと呼んでおり、交番勤務(交番に詰めること)をハコヅメと呼ぶ、ということを。でも実はハコヅメという言葉はダブルミーニングだったことが10巻で明かされる。

つまり連載開始前から「ハコヅメ」は重要な言葉だったのだ。

ではもうひとつ、サブタイトルの「逆襲」とは何だろう?

わたしは元々、パワハラで異動になったペア長とペアっ子(主人公)が、労働基準法など無視された過酷な職場で、でも国民にとって必要な仕事を、交番あるあるを見せつけながら頑張ること――これを「逆襲」と呼んでいるのだと素朴に思っていた。しかし11巻まで読んだ読者は、この「逆襲」の意味もわかりかけている。これもダブルミーニングだったのかと。

そんなことを考えると、これまでにもビミョーに気になっていた点は他にも幾つかあった。例えば、物凄く下手な主人公の似顔絵センスに、どうもモジャモジャ(別の先輩)が異様に執着しているように見える点。例えば、主人公が交通整理中に車と軽く接触した際、鉄のメンタルを持つ筈のペア長が異様に取り乱していた点(当初は単に「後輩思いだな」ぐらいにしか思っていなかったが読み返すと少々大げさな気がしていた)。例えば、ペア長の髪がロングな点。女性とはいえ刑事は背中までかかるロングヘアには普通しないだろう。

他にもある。ペア長は自分を含めて4人の女性同期がいるのだが、同期の残り1人だけ登場しないなと。

この辺のピースが面白いようにハマってきて、コメディ部分や警察官あるあるは続けながらも、本作の真のテーマに肉薄していくのが10巻と11巻だ。

控えめに言っても最高すぎるだろ。