佐原実波『ガクサン』1〜3巻

参考書系の出版社の事務として働くことになったミーハー系女子が、「お客様ご相談係」として参考書オタクと一緒に働くことになり、だんだん参考書に詳しくなったり、参考書に熱い思いを持っている人に対して憧れたり、といったアウトライン。

本作は、わたしの大好物である「お仕事漫画」としてなかなか秀逸なのだが、それ以上に、主人公のキャラというか内なる動機が極めて秀逸である。

主人公は出版社の「お客様ご相談係」という立場で半年近く働く中で「書籍編集者」に興味を持つようになる。しかし彼女は(少なくとも今は)真に編集者という仕事に興味を持っていたわけではない。そもそも出版社に入ったことだって別に書籍や出版に大した興味があったわけではない。彼女は「自分には確固たるものが何もない」「自分には夢中になれるものが何もない」という劣等感から、これまでも若干ミーハー的な憧れで短絡的に動いてしまうところがあった。そして今回も、一緒に働く参考書オタクや社内の書籍編集者の思いに触れて、当てられて、単に「何かに夢中になっている人」への憧れを「編集者という仕事」への興味と混同して短絡的に動いてしまい、近くの信頼できる人を傷つけてしまった。

これ、リアルでも、けっこう色んな人がやらかしているんだよな。コンサルタントへの憧れ、クリエイターへの憧れ、起業家への憧れ……でも実際は、その仕事に真に憧れたり目指したりしているわけでは全然なくて、単にプロフェッショナルという立場や、何かを生み出すという立場、何かを成し遂げるという立場にふんわりと憧れているだけだったりする。でも、この観点が正面切って語られることってあまりなくて、わたしも本作を読んで「確かに!」と上手く言語化できた。作者の目の付け所が凄く鋭いと思う。これは邪推だが、作者自身が、このモチーフと向き合わざるを得なかったほろ苦い経験があるのではないかなと思った。なかなか取材や想像だけで出てくるモチーフではないような気がする。

でも、これがほろ苦いエピソードで終わっていない点も良い。

主人公が、自らの内なる動機を見つめ、認識できたことである。自分は参考書を作りたくて編集者になりたいのではなく、単に参考書に夢中になっている人が好きで、憧れていただけだという事実に気づく。気づいてしまう。でも、「何かに夢中な人が好きで、そんな人たちを応援したい」という気持ちは必ずしも悪いことではなく、事実この出版社で主人公が開始したSNSでの相談業務が、会社の人々や相談をしてくる人々に少しずつプラスのインパクトを積み上げてきたことにも気づく。そして今は、書籍編集者という立場にふんわりと憧れるのを止め、今の「お客様ご相談係」の仕事をしっかり頑張ると決意するのである。この辺、1巻からの伏線が意外な形で活きていて、作者の構成力も凄いな〜と思う。

わたし自身が元・塾講師アルバイト(5年間)かつ元・現代文の参考書オタク(市販の参考書はほぼ全て購入&読破)ということもあり、個人的にこのガクサンというモチーフは好きだ。4巻以降もゼッタイ買いたい。そして作者が描き切ったと思えるまで続けてほしい。