清水佑三『逆面接 質問するから騙される』

逆面接―質問するから騙される

逆面接―質問するから騙される

本書は早くも、2014年の極私的ベストセレクションに入ることが決定した。
「逆面接」は「逆質問」とも呼ばれ、企業の人事面接において、応募者が面接官に質問を投げかけることで、応募者の能力や適性を計っていくアプローチを指す。面接の最後に「最後に、何か質問はございますか?」と聞く会社は多いと思うが、その「最後に…」の部分を主役に持ってくるところがミソである。
私は、本書で言う逆面接とは進め方が少々異なるが、それに近いアプローチを使って面接をしていた。どういうものかと言うと、(通常面接の場合もあればコンピテンシー面接の場合もあればケース面接の場合もあるが)面接官から応募者に質問を投げかける通常の面接をした後、「では最後に、あなたが当社に対する理解を存分に深められるよう、私もしくは当社に対して、10個質問をしてください」と投げかけるのである。*1
10個!!
この投げかけにより、まず、大して興味がないのに「コンサルティング」というキーワードに惹かれて集まってきただけで仕事に対する理解度や本気度の低い層は軒並みふるい落とせる。ひとつふたつの質問を予め準備してくる応募者は多いが、10個も準備している人はまずいない。そうした中で、コンサルティングという仕事に対する理解度や本気度の低い層は、HPに書いてあることをそのまま質問したり、そもそも知りたいことがないので「男女比は」「平均勤続年数は」「残業時間は」といった極めてどうでも良い質問で数を稼ごうとしたりするのである。また「御社の強み・弱みを教えてください」とか「コンサルタントの1日(1週間)のスケジュールを教えてください」という質問もよく出る。これらは、一般的には企業で働くイメージを具体的に掴もうとするポジティブな質問だと解釈されるが、正直に言ってもはや「テンプレ化」した質問である。したがってこの質問が出たら、私は「なぜこの質問をしたのですか?」とか「弱みを聞いてどうするのですか?」とか「これまでに得た情報から、あなたはどう考えますか」と切り返して、コンサルティングに対する理解度や本気度の有無を必ず確かめるようにしていた。そうすると、コンサルティングに対する理解度や本気度の高い層は答えられることが多いが、低い層は、別に本当に知りたいことではないため、畳み掛けられるとグッと詰まって答えられなくなるのである。*2
また、きちんと面接官(私)の回答を受け取って掘り下げる質問がどの程度できるかによって、単なる愛嬌とは違う、人と人とのやりとりをきちんとできるかという意味でのコミュニケーション能力を測ることができる。10個というキーワードにばかり目が行って総花的な質問を次から次に繰り返すようだと、そもそものコミュニケーション能力に疑問符が付く上、コンサルティングの現場で必須となるヒアリングやインタビューをこなすスキルや適正が不足していると見ることもできるだろう。
さらには、いわゆる圧迫面接的な要素は全然ないのに、短時間でグッと応募者にストレスをかけることができる。「10個かよ!」と驚いても、普通は「10個もありません」とは言わず、とりあえず質問を始めるはずである。そして当然、質問のやり取りをしながら、今の質問は妥当だったか、次の質問をどうしようか、新たな質問にするかそれとも今の質問を掘り下げるか……等々、思考がフル回転しているはずである。しかしプレッシャーに耐える力がないと、「おどおど」が治らないか、頭が完全にショートして働かなくなる。想定していないことなので少々動じても仕方ないが、いつまでもまともに質問できないようだと、プレッシャーの強いコンサルティングの現場で闘い続けることができるかの疑問符が付く。なお、ここでのポイントは、単にネガティブな態度や攻撃的な言葉がストレッサーになっているのではなく、クライアント(この場合は応募企業の面接官)の健全かつ高い期待がストレッサーとなっている点である。私はストレス耐性を重視するが、圧迫面接は評価しない。なぜなら、少なくとも私は、単にクライアントや上司に罵倒されても挫けない人材と働きたいのではなく、(お金をもらっているが故の)クライアントからの健全で高い要求やプレッシャーに挫けない人材、そして将来的にはそうした健全な要求やプレッシャーに喜びや誇りを抱くプロフェッショナル人材と働きたいからである。
さて、話を戻してさらに続けると、10個の質問をひねり出そうとしない応募者からは、達成志向の欠如を読み取ることができる。自分が値踏みされている状況で、10個出せというクライアント(この場合は応募企業の面接官)のオーダーに対して、10個出そうとしない姿勢は、達成志向の欠如を指摘されても仕方ないだろう。しかし一応、「なぜ10個質問しないのですか?」と畳み掛けて様子を見る。(これまで一度として説得的な回答に出会ったことはないが)仮に10個質問しない説得的な回答が返ってきたら、一定の考慮をすることになるだろう。
……という感じで、(いつまでも本書の内容に入らず私の経験談だが)逆面接・逆質問と呼ばれる手法は役に立つなあと常々思っていた。しかし本が出ていることなど全く知らなかったので、今回初めて読んでみた次第である。本書では、準備15分・逆面接15分を基本的な長さとして捉えており、面接の15分を上手く使えたかどうかのタイムマネジメントの意識や能力も見ようとしている(私は通常の面接の後に間髪入れず逆面接に入る上、時間ではなく個数で見ているので、計ることのできる能力は、同じ逆面接でもけっこう異なってくる)。
なお著者は、読書や絵画鑑賞が趣味だとエネルギー消費が少ないからバイタリティが低い可能性が高いとか、静かなクラシック音楽が好きな人間はバイタリティが低い可能性が高いとか、女性は母性でウンタラとか、圧迫面接は良いものだが2ちゃんねるがあるから使いづらいとか、正直私とは考え方の異なる点も多い。しかし逆面接・逆質問を意識的に研究・実践してきたという点で、本書は他に類書がないと言って良い。通常面接やコンピテンシー面接との対比もあるので、逆面接・逆質問に関心のある方は是非一読をオススメする。

*1:私は、大手コンサルティングファーム出身者が立ち上げた、いわゆるブティックファームとかベンチャーファームと呼ばれる零細コンサルティングファームに所属していたが、こうしたファームに応募してくる人の能力にはかなりバラツキがある。そして即戦力は少ない。だから私は、たとえ未経験あるいは即戦力のスキルや思考力を持たない人材でも、「ベンチャー×コンサルティング」という非常に厳しい世界で戦う覚悟があり(つまり本気の応募であり)、そうした厳しい環境でサバイブできる達成志向や柔軟性・学習能力のある人材は、ボスに「採ろう」と進言していた。後述するように、応募者の本気度を計るのに、この逆面接・逆質問というアプローチは有効である。

*2:なお私は、質問に対して質問で返すのは、やるのもやられるのも本来は嫌いだ。しかしこれはあくまでも面接なので、意識的に使っている。