宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』

あとは野となれ大和撫子 (角川書店単行本)

あとは野となれ大和撫子 (角川書店単行本)

アラル海を基にした架空の国「アラルスタン」を舞台とした物語。

アラルスタンはソビエト末期に作られた砂漠の小国で大統領が暗殺され、議員たちは我先にと逃げ出し、周辺国が公然と内政干渉を始め、それに反発した極右テロリストが治安は大悪化。そんな中、後宮(ハレム)の若き女性たちが立ち上がり、自分たちで国家を運営しようとする。もちろん彼女たちにも理想はあるが、火中の栗を拾うようなもので、旨味があるわけでもない。しかし祖国を守りたい……そんなアウトライン。

SF作家らしく設定の妙はあるが、本書自体は別にSFって感じでもない。まあわたしとしては面白い本が読めればそれで良いわけだし、実際面白いから何も問題はない。

なお、後宮といっても、初代大統領はまさにハレムとして使ったようだが、暗殺された二代目大統領は女を侍らすこと自体にあまり興味がなく、設定上は難民や孤児を受け入れた女性たちの学校のようなものということになっている。

余談

余談というかある意味本書の本質なのかもしれないが、アイシャという登場人物が「国体・信仰・人権による三権分立の確立」というプランを出していて、これはなるほどと思った。日本を始めとした脱宗教の近代的な法治国家にとっての三権分立とは当然に国会(立法府)・内閣(行政府)・最高裁(司法府)という3つなのだが、宗教に根ざした国家の場合、何が何の権力を行使し、また牽制していくべきなのかという話がある。イスラム圏の国家は実際こうなのかもしれない。