米澤穂信『氷菓』

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

角川学園大賞ヤングミステリー&ホラー賞を受賞した作品。
この人はライトノベルラノベ)的な作品と気合いの入ったミステリを両方とも書いているようだが、本書は明らかに前者。受賞した文学賞ライトノベル系だし、文体(特に主人公のモノローグ)も明らかにライトノベルのそれである。
ストーリーとしては、既に先輩が卒業して何の活動をするのかもよくわからない古典部という部に入る羽目になった主人公が、ヒロインの持ち込んだ地味な謎を仲間たちと捜査・解決する青春ミステリである。
ただし主人公は天才的な推理能力や変装能力・事件解決への意欲を持っている訳ではない。むしろ省エネを是とし、断る方が面倒なので事件解決に協力する無気力な人物である。(村上春樹を例に出すまでもなく)70年代や80年代ではデタッチメントも「キャラが立つ」が、90年代やゼロ年代では斜に構えることすらしないデタッチメントが既に男子高校生のメジャーなスタイルのひとつである。時代を素描することには成功しているかもしれないが、「キャラが命!」のライトノベルにしてはキャラクター設定はやや弱い(それともラノベファンはこういうキャラが好きなのか?)。ただし主人公は省エネを標榜することの空しさを覚え始めている。
なお「ミステリ」と書いたが、主人公が殺人事件に巻き込まれるようなことは全然なく、そもそも殺人事件すら起こっていない。最近は「日常の謎」として一般的に認知されているミステリのジャンルだが、別に解決しなくとも誰も何も困らない事件を「登場人物のこだわり」で捜査・推理している点で、ミステリとしては傍流と言って良いだろう。
まあ文体やキャラクターを若干ネガティブに紹介したが、不快感を覚えるほどではないし、この「日常の謎」というジャンルはけっこう面白いと思った。主人小たちがあまりにも殺人事件に遭遇しまくることから、その不自然さが漫画内でパロディ的・自虐的に言及されたことすらある『名探偵コナン』や、同じ高校の同世代の学生から何人の殺人事件の加害者と被害者が出るんだよ……と薄ら寒い気持ちになる『金田一少年の事件簿』に比べると、ミステリマニアでない俺は本書のような「日常の謎」の方がよほど素直に作品を楽しめるというものである。米澤穂信のミステリの方も気になるが、まずはこの「古典部」シリーズの続編を読んでみたい。