黒木亮『貸し込み(上)』

貸し込み 上

貸し込み 上

前の会社で起こっている不祥事の犯人が(自分の全く感知しないところで)いつの間にか自分だということになっていた――という、よくありそうで、実は非常に怖いスキームに巻き込まれてしまった主人公の物語。上巻。黒木亮の他の多くの小説と同じく、主人公は投資銀行に勤めているのだが、今回は投資銀行が舞台ではなく、邦銀時代の負の遺産にとらわれている。
「脳が損傷して十分に判断できない人に対して、認印を勝手に作るといった犯罪行為を織り交ぜて無理やり多額の金を貸し、しかも貸し手側も借り手側も関係者がドサクサに紛れて大金を抜いている」というとんでもない事件なのだが、邦銀は「私たちは知らない、主人公に聞いてくれ、でも主人公はどこにいるかわからない」という主張を繰り返していた。もちろん主人公にしてみれば、そんな悪さはしていないばかりか、そもそも邦銀時代にこの顧客に会ったこともないわけで、「そんなことを言われても困る」と銀行に牙を向く――というアウトラインだろうか。
この手の話は、本当によくあることだと思う。俺だって、しっかりと引き継ぎをした業務や、そもそも俺が全く関係していない業務であっても、前の会社を辞めた後「申し訳ありません、○○が十分に引継ぎをしなかったものですから……」くらいのことは普通に言われていると思う。俺の前に辞めた人が、同じように扱われていたからである。哀しいが、それが会社というものである。