今野敏『初陣 隠蔽捜査3.5』

初陣―隠蔽捜査3.5―(新潮文庫)

初陣―隠蔽捜査3.5―(新潮文庫)

個人的に今ハマっている隠蔽捜査シリーズの短編集。

3.5とある通り、3と4の間に出版されたのだが、作品内の時系列は別に3と4の間に起こったものではないと思われたので、まず発売済の長編を1〜7まで一気読みしてから、短編集に手を付けた次第。

長編は原則として、主人公(竜崎)の視点で書かれているのだが、この短編集は原則として、主人公の幼馴染であり事実上の相棒でもある伊丹の視点で書かれている。

この伊丹という人物も、なかなか辛い立場である。キャリアなのに必ずしも学歴が十分でないというハンデを乗り越えて、上手く立ち回ろうとしているのに、主人公が「原理原則」の信奉者だから、すぐに波風が起こるような横紙破りをしてしまう。ただ、結果として伊丹は、主人公の「横紙破り」によって何度も救われるのだから、なかなか難しい。そして面白い。

補足

続きモノなので以前に書いた本シリーズの紹介を、初見の方のために再掲しておく。

本作はいわゆる警察小説である。なので事件が発生して解決する推理ドラマと、警察組織の中でのドラマ、そして主人公の家庭内ドラマ、この3つのドラマが基本的に平行して走ることになる(最初の2つだけのこともある)。しかし本作は他の多くの警察小説と異なる点があり、主人公は警察官と言っても現場の刑事ではなく、キャリアである。警察官僚とも呼ばれる上層部のエリートなのである。さて、ここからはネタバレを含むので簡単に書くが、主人公は元々キャリアであることに大きな誇りと使命感を抱いており、順調に出世もしてきた。だが、自身の信条である「原理原則」にこだわった結果、1巻のラストで大森署の署長という降格人事を受けてしまう。しかし主人公は、独自のキャリア信条に忠実に、たとえ降格されても公のために働き続けるという選択をし、降格人事を受け入れる(通常は皆この時点で辞める)。そして降格先の大森署で、辣腕を振るい始めるのである。