大塚英志『物語の体操』

本書は主にジュニアノベルズ(角川スニーカー文庫やコバルト文庫といったジャンルだと思う)を対象にした小説の書き方指南である。俺は小説を書いているわけではないけれど、ジャンルに関係なく、それこそジュニアノベルズ講座からレポートの書き方から、文章講座の類は欲しくなることが多い。

話を戻すが、ジュニアノベルズを対象にした小説講座というと、以前このブログでも取り上げた久美沙織『新人賞の獲り方おしえます』『もう一度だけ新人賞の獲り方おしえます』を怒りと共に思い出してしまう。

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しかしその2冊と比して本書は格段にレベルが高い――というか、格段に面白い。どんどん盗作しろ、タロットカードで小説は作れる、方程式でプロットがみるみる作れる、村上龍は実にパクりやすい――胡散臭いトピックスだけを並べるだけでもワクワクしてしまう。

本書において著者は小説をスポーツにたとえ、小説を書く技術をスポーツにおいての技術や基礎体力とみなす。つまり著者は小説を書くという行為や作家をできるだけ特別視・神聖視せず、どこまでがその作家の特別なものであってどこまでが普通の人でも訓練によって習熟可能な領域なのかの線引きをしたいと語るのだ。実際に線引きをしてみせる。それによって、従来「作家の資質」と思われていたものが実はトレーニングによって習熟可能な領域がかなり多いことを証明してみせるのである。

胡散臭そうなトピックスではあっても、本書の構成は一貫した(著者なりの)方法論に基づいていて、確かに「なるほど」と思わせる内容ではある。しかも「こんな力をこうやって身につけろ」と具体的なトレーニングメニューを示すのも、「小説とは芸術であって特別なものだ!」「書きたいことを探すべし!」「豊かな人生経験が重要である!」みたいな本よりははるかに有益でかつ面白い。人を選ぶだろうから特に他人にオススメはしないが、とりあえず俺はわりと楽しめた。

ちなみに、帯の推薦文を書いている高橋源一郎の名前が大塚英志の名前と同じくらい大きく印刷されているが、とりあえず高橋源一郎は本書と全く何の関係もない。仲は悪くないらしい。